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番外06 大悪魔の襲来



広大な宇宙空間。

奇妙な姿をした何者かが、あてどもなく漂っていた。

「んん?あいつがあんな星に居ついているとは。

 おもしれえ。行ってみるか」


何者かは独り言ちると、その場からふっと消えた。

もちろん空気のない真空中なので、その声は誰にも聞こえることは無かった。




一方、神と天使達の住まう宮殿では。

「やっほ、英知(えいち)。学校お休みなんだって?」


そう言うのは赤髪に赤い服を着た天使の少女、モエルだ。

「うん。インフルエンザが流行(はや)って学級閉鎖。

 宮殿で多めに遊べるね。

 ま、でも宿題もやんなきゃだけど」


問いに答えるのは普通の中学生、英知(えいち)

二人は宮殿の、大きな門の前で話していた。

「じゃ、宿題全部済ませてから遊びましょ」


「えぇー」


英知が嫌そうな顔をする。

その時、宮殿の扉が勢いよく開き、ガラの悪そうな天使が出てきた。

「宿題?そんなもんやる必要ねえよ。

 シカトして遊び倒しとけ」


その天使が言う。

英知はその天使に向かってスマホをかざした。


名前:サカラエル

力:あらゆる事象に逆らう


「おい、何勝手に俺を映してんだ?」


サカラエルが英知に(すご)む。

「ちょっとやめなさいよ。おとなしくしてないと、あんた焼くわよ?」


モエルが一見仲裁するようで、さらっと恐ろしいことを口走る。

「上等だ、やってみやがれ」


辺りは一触即発の空気となる。


まさにその時、新たな者がなんの前触れもなくその場に現れた。

全長は1メートルほど。

『Γ』の形状の肉体を持ち、背後には一対の黒いコウモリの翼。

矢じりのように先端が尖った尻尾を持つ。

目、口、鼻、耳など、顔に当たるような部位は見当たらない。

「ここがエルの根城(ねじろ)か。

 奴の能力からすれば、惑星ごと家にすることも可能だろうに、ずいぶん小さなスペースに収まっているな」


奇妙な形の物体が、どこからともなく音声を発する。

「その翼、その尾。あなたはあたし達の天敵である悪魔ね!」


モエルが警戒心を露わに断定する。

「くくく、如何にも。俺は大悪魔の一体、名は癌魔(がんま)だ。

 宜しくな、エルの力の片鱗ども」


奇妙な物体は大悪魔だったのだ。

モエルは癌魔(がんま)の前に立ちふさがる。

「今すぐ去りなさい。さもなくば」


モエルの言葉は途中で途切れた。

モエルの体が急激に変化を始めた。

純白の翼は漆黒のコウモリの翼に。

頭上の天使の輪は壊れ、消滅。

尻からは悪魔を思わせる黒い尻尾が出現。

真っ赤だった衣服には黒色が混じり、禍々しい赤黒い服に変化した。

モエルだった者は、癌魔に(ひざまず)く。

「貴方様のおかげで悪魔に生まれ変わることができました。

 この悪魔 モ は貴方様に忠誠を誓います」


なんとモエルは堕天し、悪魔 モ となってしまった!

「そんな、モエルが」


英知はショックのあまり、思ったことがそのまま口に出たのにも気づかぬ有様だ。

英知はスマホを悪魔 モ に向ける。

半ば予想通り、スマホは何の反応も示さなかった。

悪魔 モ は、天使認識アプリからも外れた存在となったのだ。

「モエル!君は俺の友達の、モエルだよね?」


英知は僅かな希望を胸に尋ねる。

「人間風情(ふぜい)が、あたしと対等な口利いてんじゃないわよ。

 お前はあたしの手で殺してあげる」


次の瞬間には、サカラエルが悪魔 モ と英知の間に立ちふさがっていた。

そして炎に包まれるサカラエル。

「やっぱりな。俺には効かん」


サカラエルがそう言うと、

体を包んでいた炎が無数小さな火の粉になって飛び散り、消えた。

「一度モエルとは戦って見たかったんだよ。

 あ、お前を助けた訳じゃないから勘違いすんなよ」


サカラエルがにべもなく答える。


今まで沈黙していた癌魔が前に出る。

「便利な能力だな。面白い、お前も悪魔にしてやる」


「無駄だ。全ての力に逆らってやんよ」


癌魔とサカラエルが対峙する。

突然、サカラエルの正面に半透明の波紋が浮かんだ。

すると、みるみるうちにサカラエルの身体は黒色に染まっていった。

サカラエルもまた、完全に悪魔に堕ちてしまった!

「癌魔様。この俺、悪魔サカラになんでも申しつけ下さいませ」


気のせいか性格まで変わっている。

「はっはっ。この調子でエルの力の片鱗を全て奪い尽くしてやろう」


癌魔が邪気を含んだ声で宣言する。

堕天した二人の悪魔は、その左右で(ひざまず)いている。


唐突に、エルが姿を現した。

エルは、全ての天使達の(あるじ)であり、神である。

L字の身体に純白の翼、その少し上方には脆そうな輪が浮かんでいる。

癌魔が口を開く。

「久しぶりだな。俺と同格、高次元の存在エル」


「これ以上、私の天使達を玩具(おもちゃ)にさせる訳にはいかぬ。

 残念だが癌魔、貴様には滅んでもらおう」


エルはいつになく厳しい口調で言い放つ。

「ここで戦えば太陽系が壊れてしまう。場所を変えるぞ」


エルの言葉と共に、神と大悪魔はその場から掻き消えた。

英知と二名の悪魔は、その場に取り残される。

英知はそろりそろりと前進し、宮殿の門を目指した。

「おっと、逃がさないわよ」


悪魔 モ が立ちふさがる。

その肩を、悪魔サカラが掴む。

「そんな雑魚より、俺の相手をしてもらおうか」


「鬱陶しい奴ね。同じ悪魔同士で戦うなんて馬鹿げてるわ」


モ の言葉に、サカラは鼻で笑う。

「そんなもん関係ねえ。俺の力にひれ伏しやがれ」


二名の周囲を大量の火の粉が渦巻く。

悪魔達が争っている隙に、英知は宮殿の門をくぐって宮殿内部に避難した。

シリエルの部屋へ飛ぶ六芒星を見つけ、踏んだ。

瞬時に英知はシリエルの部屋に瞬間移動していた。

六芒星はワープ装置なのだ。

シリエルの部屋には、ほぼ全知だが無口のシリエル、

そしてシリエルを補佐するオシエル、コタエルがいた。

「コタエル!悪魔に変化(へんげ)した天使を元に戻すにはどうしたらいいの?」


英知の問いに、コタエルは静かに答える。

「今回の場合は、悪魔に改変した張本人、癌魔を滅するしかありません。

 そしてそれが可能なのはエル様だけです」


「それなら、モエル達は元に戻るんだね?」


コタエルは、少しの間沈黙してから口を開く。

「エル様が勝てば、の話です。

 エル様といえど、癌魔に勝てるかどうかはシリエルですら知りえないのです」


「そんな、神様でも勝てるか分からないなんて」


「エル様と癌魔は規格外の存在。天使の力など遠く及ばないのです」


コタエルは悲しげに言う。

「我々にできることは、エル様の戦いを見守ることだけです」


コタエルが言い終えると同時に、天井から巨大スクリーンが降りてきた。

スクリーンには、漆黒の宇宙空間を背景に、エルと癌魔が対峙している様子が映っていた。

「シリエルが感知できる情報が、そのまま映像として映ります」


コタエルが補足する。

エルと癌魔はテレパシーで会話していた。


(俺は大悪魔で、お前は唯一神気取りか。能力差なんぞ無いに等しいのになあ。

なんなら俺が唯一神に成り代わってやろうか?)


癌魔の言葉に対し、エルが応える。

(天使達を堕天させていたのはそれが目的か)


(いや、違うなあ。お前の天使ごっこと同じく、俺の方もただの戯れよ)


(戯れに命を懸けるか)


エルの言葉を最後に、両名の周囲に直径10メートル程の球体が、複数現れた。

固体で構成されているらしく、とても頑丈そうである。

エルの周囲には球体が4つ、癌魔の周囲には球体が8つある。

(そんな少数の武器で大丈夫かよ?)


癌魔があざ笑う。

次の瞬間、球体は恐ろしく高速で動き、エルの操る物と癌魔の操る物が激しくぶつかり合う。

エルと癌魔も球体に合わせて激しく不規則な移動を繰り返す。

「エル様と大悪魔の速度は、光速を超えています。

 肉体及び武器を、光速を超えられないブラディオンから常に光速を上回るタキオンへと瞬時に再構築したのでしょう。

 ちなみに戦いの映像は、シリエルの知覚を通じて超スローに変換していますので、

 我々の目でも観賞可能です」


コタエルが解説を挟む。

英知にはちんぷんかんぷんだった。


癌魔の8つの球体が、一斉にエルへ襲い掛かる!

エルは自分の持つ4つの球体を、相手の8つのうち4つにぶつけ、

ぶつけられた4つは軌道を外れ、癌魔の残りの4つに衝突する。

球体をビリヤードのように複雑な軌道で弾くことで、エルは数の不利を補っているのだ。


超越者二名が、宇宙空間を縦横無尽に駆け巡りながら戦っている。

癌魔の球体の1つが、たまたま近くにあった恒星を貫いた。

恒星は爆発四散し、惑星を構成していた膨大な粒子が派手にばら撒かれる。

エルと癌魔が場所を変えずに戦えば、太陽系が壊れるという話は誇張でもなんでもなかったのだ。


合計12の球体が激しく乱れ飛び、エルと癌魔は互角に渡り合っている様子だ。



モエルを元に戻すため、絶対に神様に勝って貰わなくてはならない。

そのために自分ができることは?

英知は考える。

「そうだ!テレパシーで癌魔に俺の言葉を届けられないかな?」


「ツタエルに手伝って貰えば可能です」


コタエルは回答する。




場所は変わって、宇宙空間。

エルと癌魔が攻防を繰り広げている最中。

癌魔はテレパシーを受信した。

(偉大な神様は、弱小なお前なんかに絶対に負けたりはしない!最後に勝つのは俺達だ!)


(あ?)


癌魔は煽られて少し苛立った。

癌魔が反応したことで、癌魔の操る球体の軌道がほんの少しの間雑になる。

8つの球体を紙一重で躱したエルが、正確に自身の球体を操作する。

その一つが癌魔を捉えた。

球体は癌魔を殴り飛ばし、癌魔の頭脳に相当する部位が消し飛んだ。

癌魔は刹那の時間、具体的には1ピコ秒程度で欠損した部位を再生させたが、

その隙をエルは逃さなかった。

(即死能力、全特化)


癌魔の体の色が抜け、やがて癌魔は塵と化した。

エルが勝利したのだ。




時と場所はシリエルの部屋に一旦戻る。

「癌魔の頭脳が破壊されたことで、奴が全身に展開していた即死耐性が1ピコ秒だけ無効化されました。

 エル様はその穴を即死能力で突いたのです」


コタエルが講義している。

「そんなことより、モエル達はどうなったの?」


英知がせっつく。

「ご自身の目で確かめてみることをお勧めします」




英知は宮殿の外、大きな門の前に飛び出した。

そこには、白鳥のような純白の翼を取り戻した、モエルの姿があった。

ついでに天使に戻ったサカラエルも。

「ああ、英知」


モエルは英知を強くハグした。

「堕天している間にあんな(ひど)いことを言ってしまって。

 あたし、なんと謝ったらいいか」


「い、いや、モエルは操られていただけなんだし気にしないで」


英知は内心ドキドキしながらモエルを慰める。

むっくり。

英知の大事な部分が、密かに起立していた。


モエルはやっとハグをやめ、英知を離した。

モエルに天使の笑顔が戻った。それだけで英知は充分に報われたのだった。


「けっ、無自覚にリア充しやがって」

サカラエルが毒づいた。




その頃、(エル)の部屋では。

戦いを終えたエルが、テレポートで帰還していた。

「エル様、お帰りなさいませ」


ササエルが跪きながら、主を出迎える。

「ただ今戻ったぞ。天使一同、欠員もなく無事で何よりだ」


エルが応える。

「ところでエル様、大悪魔とやらは封印処分にされなかったのですか?」


ササエルがテーブルにある、一つの黒い星を見ながら疑問を口にする。

「そうだ。相手が私と同格であるがゆえ、そのような手加減は不可能であった。

 滅ぼすか滅ぼされるか、の二択しかなかったのだ。

 互角の戦いに勝てて、私達は幸運だった」


「左様でございます」


エルの言葉にササエルが相槌を打った。



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