番外04 地球外生命体
三角形と逆三角形を重ね合わせた形、いわゆる六芒星型の
宇宙船が、牧草地の上空100メートルに浮いていた。
その中では、三角状に並んだ三つの赤い目を持つ、
暗い灰色の異星人達が、なにやら会話していた。
翻訳すると、以下の通りである。
「原始的な惑星だな。この星で最も進んだ文明を持つ
地球人でも、技術力では我々に遥かに劣る」
別の異星人が、三本の腕を駆使してジェスチャーを交えながら
言う。
「そろそろ調査も潮時か?」
また別の異星人が、三本の脚の一つを踏み鳴らして言う。
「いや、報告するデータが足りない。もう少し調査を続けよう」
宙に浮いていた大きな宇宙船が、突如として掻き消えた。
英知の自宅。テレビでUFO特集をやっていた。
「最近、世界各地で六芒星型のUFOの目撃例が後を絶たない。
これは何かの予兆なのか。専門家に聞いてみた」
「これは明らかに宇宙人の仕業です。
地球を侵略しに偵察しているのでしょう。
各国の軍は有事に備えるべきです」
テレビを見ていた母親が笑いながら言った。
「バカねえ。こんなのねつ造に決まってるでしょう。
宇宙人なんている訳がないわ」
英知の見解は違っていた。
何せ、実際に神様だとか天使だとかをこの目で見ているのだ。
宇宙人がいてもなんら不思議ではない。
翌日、学校終わりに、英知はムカエルの車で
宮殿へと向かっていた。
宮殿が見えてきた。しかし、様子がおかしい。
宮殿の更に上空に、大きな六芒星型の物体が浮かんでいる。
「ムカエルさん、あれは?」
「私にも分かりません。情報がまだ入ってきていないものですから」
昨日テレビで見たUFOだ、と英知は確信した。
一方、宮殿内では、天使達がそれぞれ別の反応を示していた。
「見える。エル様の宮殿の更に上に、巨大な建造物が
突如として現れた」
とミエル。
「聞こえる。巨大な建造物が、空気を押しのける微かな音が」
とキコエル。
「今なら言える。これは地球外生命体の乗り物だと」
とイエル。
ウロタエルは茫然としながら言った。
「バカな、あり得ません。宮殿周囲の空間の隠蔽能力を突き破って、
何者かに場所を突き止められるなんて」
過去と現在に関して、ほぼ全知とも言えるシリエルは
補佐のオシエルに指示を出した。
「ギターが必要なんですね?分かりました」
オシエルがギターを取りに行く。
「シリエルが直々に対話しようとするなんて、珍しいですね」
同じく補佐のコタエルが言った。
三つ目、三つ腕、三つ脚の異星人は宇宙船内で騒ぎ立てていた。
「空間の歪みを検出!空間内部に建物が隠蔽されている模様!」
「まさか地球人が、ここまでの技術を持つとは。
調査続行した甲斐があったな」
「建物から何か出てきたぞ!地球人か?」
六芒星型のUFOに、天使達が数人近づいて行った。
「英知様、どうします?」
ムカエルが声を掛ける。
「行ってみよう。他の天使達もいるし、
危なくなってもなんとかなるでしょ」
英知は答えた。
「では慎重に近づくことにしましょう」
ムカエルの車も、UFOにゆっくりと近づいてゆく。
UFOに一番近い天使が、ギターを抱えている。
英知はスマホをかざして確認する。
あれはシリエルだ。
シリエルは、ギターで奇妙な旋律を奏で始めた。
楽曲というにはあまりに不自然な旋律。
聞いていて心地の良いものではない。
シリエルの隣には、天使が大声で何か言っていた。
スマホで確認すると、それはコタエルだった。
「コタエルの声が聞き取れる所まで行こう」
英知は指示する。
コタエルの声が届く、十分な距離まで接近すると
UFOの下部中央が開き、中から宇宙服を着た者達が二名降りてきた。
腕と足の数が、人間のそれより一本ずつ多い。
二名は、そのまま空中で静止する。
シリエルがギターを鳴らす。
「『エル様の御前である。異星人達よ、控えおろう』
とシリエルが言っています」
コタエルが解説している。
宇宙服姿の異星人が、ギターを響かせるような声色を出した。
「『エル様とは何者だ?そしてお前達は地球人ではないのか?』
と異星人が言っています」
「『エル様は、この地球と、
その上に住まう全ての生物を創り上げたお方だ。
そして我々はエル様の僕、天使だ。
地球人とは異なる』とシリエルが言っています」
異星人二人は動揺したようだ。
「『是非ともエル様にお目通り願いたい。
エル様に伝えて貰えないだろうか?』と異星人が言っています」
(よかろう)
その場にいる全員の頭にテレパシーが響いた。
いつの間にか神が、異星人達に向かい合っていた。
「『その姿は!
活動するだけで物理法則を意のままにねじ伏せるという
伝説の高位生命体!
お目にかかれて我々一同感動しました』と異星人が言っています」
(お前達は、私が地球を創る以前から別の星にいた生命体だな)
「宇宙人って神様が創ったんじゃないの?」
「どうやら違うようですね」
英知とムカエルがやり取りする。
「『我々は(母星語で)大いなる星から、
他の星の宇宙生物を調査しにやってきた次第です。
勝手ながら、貴方達の映像、音声は船に収めさせて貰いました。
十分な記録が取れたので、そろそろお暇します』
と異星人が言っています」
異星人達はUFOに吸い込まれるように戻っていった。
そして、UFOは前触れもなくいきなり消えてしまった。
その後、六芒星型のUFOを見ることは無くなった。
もちろん、天空の宮殿でも。
ムカエル曰く、あの後、宮殿の隠蔽機能を強化したらしい。
少し日にちが経ち、英知は宮殿に遊びに来た。
入り口から入った玄関の床に文字と六芒星のマークが描かれている。
英知は、試しにモエルと書かれた六芒星を踏んでみた。
周囲の景色がぶれ、いつの間にか英知はモエルの部屋にいた。
「あら、英知。いらっしゃい」
モエルだ。
「何この仕掛け」
「これは、先日見た宇宙船のワープ機能を、シリエルにお願いして
宮殿内で再現できるようにした装置なの」
宮殿内での行き来が捗りそうだ、と英知はぼんやり思った。