番外03 人類滅亡の予言
「英知様、見てください。私専用のスマホが支給されました」
不老人間のカナエルが、嬉しそうにスマホを見せつけてくる。
ここは宮殿の一角。
英知とカナエルが親しげに話し込んでいる。
「よかったじゃん」
と英知。
「ほう、天気予報も見れるのですか。でも、天使の中には
もっと正確な予報もできる者がいるのですよ。
一緒に行きませんか?英知様」
英知は天気予報にあまり関心がなかったが、なんとなく
カナエルに付き合うことにした。
宮殿内を歩くこと5分、怪しげな天幕が張られた場所に着いた。
長テーブルの向こう側に、頭まで布で覆われた天使が一人、座っていた。
「あの天使です」
長テーブルの前には椅子が一つ。まずカナエルが座って天使に話しかけた。
「ウラナエル、明日の宮殿下の天気はどうですか?」
「大雨となるでしょう」
ウラナエルと呼ばれた天使が答える。
「スマホの天気予報では曇りとなっているのですが、
ウラナエルが言うなら間違いなく大雨ですね」
カナエルが椅子を譲り、今度は英知の番だ。
さて、何を聞こうか。
英知が考えていると、ウラナエルが身を乗り出して言った。
「貴方から不吉な気配を感じます。これについて占っても
宜しいでしょうか?」
「う、うん」
ウラナエルの迫力に、英知は気圧される。
「それでは。貴方は4日後に死にます」
!?
「それに留まらず、人類全てが一週間のうちに絶滅するでしょう」
な、何だってー!
「具体的に、何で絶滅するの?」
英知がおずおずと尋ねる。
「突然変異したウイルスです。これは、明日の12時34分に
イギリシア王国の首都ドロンで、一人の人間の体内から
発生します。ウイルスは空気感染し、強い致死性を持ちます。
それが瞬く間に全世界へと広がり、一人も助からないでしょう」
ウラナエルがさらりと恐ろしい予言を口にする。
「あの、天使にも感染するのでしょうか?」
カナエルが割って入る。
「ウイルスは、人間にしか感染しません。よって
人間と身体構造の異なる天使に感染することはありません」
「なるほど、事態は深刻ですね」
「カナエル、どういうこと?」
英知が疑問を口にする。
「人間だけが絶滅するだけなら、エル様が放っておく可能性があります。
逆に、天使にも悪影響があれば、必ず何らかの処置が施されます」
マジか。神様つめたい。
英知は天幕を後にすると、カナエルに確認した。
「予言の的中率ってどのくらいなの?」
「ウラナエルの予言は99%的中します。しかし、絶対ではありません。
1%の可能性に賭けましょう」
「ま、まあ、人類全滅しても、イキカエルあたりに生き返らせてもらえば」
カナエルはスマホの電卓をいじると、英知を見て答える。
「イキカエルが生物一体生き返らせるのに一秒ほど掛かります。
全人類を生き返らせるとすれば、休みなしでも200年以上掛かります」
状況は絶望的だ。
英知はコタエルに電話を掛けた。
それでもコタエルなら、コタエルならきっと何とかしてくれる。
そう信じて。
だが。
「ただいま休暇中です。ご用件のある方は発信音の後にメッセージを入れてください」
留守電だー!
「コタエルさん、人類が滅亡するかもしれないので
回避できる案があればすぐに教えて!」
英知はメッセージを吹き込む。
そこで思い出す。確かコタエルと同じ役割の天使がいたような。
オシエルか。
英知とカナエルは、オシエルが普段いると思われる、
シリエルの部屋へ向かった。
部屋では、シリエルだけが鎮座していた。
オシエルも留守。シリエルには何を言っても無言。
こうなったら。
ダメ元で、直接神様に頼んでみようかな?
部屋を後にした所で英知が一言。
「カナエル、ちょっと神様の所に行ってくる」
「そ、それは危ないですって!」
「何もしなければどうせ人類が全滅しちゃうんだ。
だったらやるしかないだろ?」
「うーん」
悩むカナエルを置いてけぼりにして
英知は神の玉座を目指した。
「私がすべきことは何もない」
神が言い放った。
「そこをなんとかお願いします」
英知も負けじと頭を下げる。
「これで人類が滅ぶのもまた一興。
私に頼らず、ない頭を振り絞って足掻いてみよ。
それでもし人類が助かるのなら、私は止めんぞ」
英知はエルの部屋からとぼとぼと出る。
「やはり駄目でしたか。天使達だけで何とかするしか
ないようですね」
カナエルが言う。
「確率99%。せめてもっと低ければなあ」
英知が泣き言を言う。
「あっ、それはもう少し下げられるかもしれません」
カナエルが何か思いついたようだ。
「英知様、こちらへ」
「え?うん」
カナエルに導かれるまま、宮殿内を進んだ。
案内された小部屋には、一人の天使がいた。
英知は例によってスマホをかざした。
名前:アリエル
力:可能性を底上げする。
「あの、アリエルさん」
「何でしょうか、英知さん」
「ウラナエルに、人類滅亡の予言をされたんだけど
それが外れる可能性を上げられる?」
「ええ、もちろん」
「それでは早速お願いします」
英知はアリエルに頭を下げる。
アリエルの雰囲気がにわかに変わったような気がした。
「終わりました。その予言は51%の確率で外れます」
「やりましたね、英知様」
カナエルが喜ぶ。
「うん、これで五分五分だな」
その後、特に対策も思いつかないので
英知はカナエルと別れ、モエルを電話で呼び出した。
「明日が人類全滅の分かれ目になるんだ。
ちょっと付き合ってくれないか?」
「ええ、いいわよ」
モエルが快諾する。
遊んで回る気にもなれず、モエルと二人きりで時間だけが過ぎていく。
時刻は深夜0時。
「英知、家に帰らないの?」
「そんな気分じゃないな」
モエルとの会話が続かず、また黙り込んでしまう。
「モエル。もし、良かったら」
言葉の途中で、スマホが鳴る。
コタエルからだ!
「コタエルです。英知さん、シタガエルを連れて
イギリシア王国の指定の場所まで行ってください」
コタエルの指示を受け、電話を切った英知が一言。
「モエル、急用が出来た。また次があれば会おう」
そして英知はシタガエルと合流、
ムカエルの車でイギリシア王国へと向かった。
時刻は昼の12時24分。
「あと10分だ」
場所はイギリシア王国のドロン。英知は焦っていた。
「あの男です」
シタガエルが指さしたのは、背の低い小太りの中年男性。
その男を、英知とシタガエルが取り囲む。
「*#$%?」
聞きなれない男の言葉に構わず、シタガエルが男に手を軽くかざす。
「あと5秒!」
英知がスマホでカウントする。
そしてその時は来た。
「新種のウイルスの支配に成功しました。
状態を固定化しているので、増殖することはないでしょう」
シタガエルが状況を報告する。
「あっ、今、男の免疫機構がウイルスを無力化しました。
人類は助かりましたよ」
シタガエルは己の能力を解除しながら言った。
英知はその場にへたり込んだ。
助かった。人類は救われたのだ。
その後。
約二日ぶりに家に帰った英知は、母親にこってり絞られたのだった。
予言から4日経っても英知が死ななかったことは言うまでもない。