番外02 滅ぼされた生き物
恐竜さんだドン
英知は自宅でネットニュースを流し読みしていた。
見出しには、こう書いてある。
第三アリカ大陸の奥地で恐竜の化石が発見される。
待てよ?と英知は考える。
神様と天使達の話によると、生き物は全て、
神様とお供の天使によって作られたそうだ。
ならば、現代に恐竜がいてもおかしくない。
しかし、見つかるのは化石ばかりと来たもんだ。
困った時の情報源。
英知はコタエルに電話する。
「もしもし、コタエルさん?」
「英知さんですね。どうしました?」
「質問なんだけど、恐竜ってなんで絶滅したの?」
「少々長くなりますが、宜しいですか?」
「うん」
昔話が始まった。
それは、神が全種類の生物を創造し終えて
少し時間が経ったころ。
「うーむ、あいつら、強く創りすぎたな」
エルが唸る。
エルが見据えているのは、巨大な体躯、強靭な肉体を持つ
恐竜達。
「このままでは、せっかく創った他の生物が食い尽くされる。
ちょっと間引くか」
「その役目、私にお任せください」
天使のシニタエルが申し出る。
「良かろう」
エルは気軽に許可する。そして宮殿に帰ってしまった。
「貴方たちに罪はありませんが、私の力の餌食になって貰います。
ことごとく滅びなさい!」
シニタエルは、言葉の通じない恐竜達に宣告する。
シニタエルを中心として半径100kmに、黒い波動が広がる。
その範囲内にいた恐竜達は、バタバタと倒れ、事切れた。
シニタエルが場所を移動し、同じことを繰り返す。
こうして、恐竜達は一日掛からずして絶滅した。
「という訳です」
「なるほどねえ。ありがとう、コタエルさん」
英知は電話を切った。
場所は変わって、宮殿内の研究室。
高さ8メートルはあろうかという巨大なタマゴが安置されていた。
「太古に失われし生命体。その究極系がもうすぐ」
研究員であるサソエルが呟く。
いきなりタマゴ全体に無数のヒビが入り、殻が弾け飛んだ。
そこから現れたのは、なんとも禍々しい、合成恐竜。
「おお、素晴らしい」
サソエルは悦に入った。
「グオオオオ!」
合成恐竜が咆哮する。
「何事ですか!」
咆哮を聞きつけたオビエルが、研究室に駆け込んできた。
「見てください、オビエル。ついに誕生しましたよ。
滅ぼされし強力な種族、それらを強化合成して復活させました。
ティラノサウルスの体をベースに、
アンキロサウルスの装甲、トリケラトプスの角、
プテラノドンの翼を持つ、究極の恐竜です。
天使の技術も付加してあるので空も飛べますよ」
サソエルが興奮した様子でまくし立てる。
一方、オビエルは腰を抜かしていた。
じわりとオビエルに迫る、合成恐竜。
「たっ、食べないで下さい!」
オビエルが叫ぶ。
合成恐竜はもう一度咆哮すると、オビエルのすぐ隣を駆け抜けて
壁に突っ込んだ。
壁に大穴が開いた。
「ひぇぇ」
「これは、予想以上にパワフルですね。流石は滅ぼされし種族」
二人の天使がそれぞれ違う反応する。
合成恐竜は次々に壁をぶち破り、宮殿の外に飛び出した。
「とんでもないことを仕出かしてくれましたね。サソエル」
そう言って、壁の大穴から長剣を持った天使が入ってくる。
モチコタエルだ。
「エル様がなぜ、あの類を滅ぼしたのか、貴方はそこを
慎重に考えるべきでした。
あれを放っておくと、地上に大混乱が起こるでしょう。
あの怪物は、私とソビエルが処分します」
モチコタエルが怪物を追って、宮殿外に飛び出す。
「やれやれ、恐竜の研究は凍結でしょうな」
サソエルが一人呟く。
宮殿の一角に、ひと際広い部屋と、外へ通じる扉があった。
扉がゆっくりと左右にスライドする。
その中から出てきたのは、身長10メートルほどの巨大な天使。
ソビエルだった。
ソビエルは、合成恐竜とそれを追いかけるモチコタエルを眺めていたが
やがて、自身の巨大な翼を羽ばたかせ、
2名の元へと向かった。
「あの姿は、まるで想像上の怪物、
ドラゴンといったところでしょうか」
飛翔する合成恐竜を一目見たモチコタエルの感想だ。
モチコタエルが速度を上げて飛ぶと、
ドラゴンとの距離が縮まってゆく。
その途中でソビエルとも合流した。
ドラゴンは、天使達に気づいたのか、
急に振り返ると、なんと炎を吐き出した。
モチコタエルが前に出る。
ゴォッ!
炎が通り過ぎる。
全く無傷のモチコタエルが言い放つ。
「私でなければ即死でした。
ソビエル、次は貴方の出番ですよ」
ドラゴンは、今度はその強靭な尻尾を薙ぎ払った。
ソビエルがそれを受け止める。
「この私にここまで力を使わせるとは、やりますね」
ソビエルが轟く声で感想を洩らす。
モチコタエルが長剣を構えた。
そして、ドラゴンの左目めがけて突きを放つ。
左目を失ったドラゴンは、怒りの雄たけびを放つ。
続いて、ソビエルがドラゴンの腹に殴りかかる。
ゴォンと鈍い音が響く。
しかしドラゴンには効いていないようだ。
「何をのんびりと戦っているのですか?」
新たな声が聞こえた。
そちらには、三人目となる天使がいた。
ドラゴンが口を開け、その天使に噛みつこうとした。
天使は攻撃を避け、ドラゴンの角に触れると宣言する。
「無へと消え去りなさい」
なんと、ドラゴンが前触れもなくいきなり消滅した。
消滅の天使、キエルが力を振るったのだ。
「いやあ、魔改造された恐竜は強敵でしたね」
「ご苦労」
「労いのお言葉、感謝致します」
モチコタエルは神に報告し、頭を下げる。
「しかし、始めからキエルに任せていれば
早く終わったのでは?」
「返す言葉もございません」
エルに指摘され、モチコタエルは落ち込む。
「かく言う私も、ブ に嵌められた時に、
アラガエルの能力を失念していたしな。
最善の一手は、ここぞという時に打てぬものよ」
エルの笑い声が部屋に響く。
エルは、全ての天使の力を使えるのだ。
しかも、超強化版で。
こうして、天空の恐竜騒動は幕を閉じた。