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10(最終話) エルは死んだ



今日は久々に、モエルと遊ぶ約束をしていた。

英知(えいち)は、宮殿のすぐ隣に最近建設された

テーマパークに来ていた。

もうすぐ待ち合わせの時間だ。

「英知!もう来てたの?早いのね」

モエルが微笑みながら、英知の方へと向かってくる。

「ワクワクしちゃって、気づいたら早めに着いたんだ」

「さて、何に乗る?ジェットコー」

モエルの言葉が途切れ、そのまま黙り込む。

不審に思い、英知が顔を覗くと

モエルから表情が消えていた。


モエルはそのまま回れ右をすると、宮殿方向に飛び去ってしまった。

「なんだんだ?」

英知は茫然と呟く。



宮殿内部、エルの間。

エルは玉座に座り、扉の向こうから近づく天使を待ち受けていた。

扉が開く。

イキタエルが部屋に入ってきた。

「どうやら、してやられてようだ」

エルはそう言うと、クックッと笑う。


イキタエルの能力が発動した。

エルは硬直した。その体の隅々にヒビが入る。

そして、(エル)はバラバラになった。

その場に崩れ落ちるエルの残骸。

それをイキタエルが無表情に見届けた。



ついにエルの奴を倒した!今日からワシが

この宮殿の支配者となるのだ!


シタガエルの後頭部に噛みついている

悪魔 ブ はあざ笑った。


ブ はシタガエルに取り憑き、彼 (?)の能力を用いて

全ての天使を支配下に収めた。

そしてイキタエルを操り、エルを亡き者にしたのだ。


いずれは天使どもを堕落させ、悪魔の軍団を再編してやろうか。

ブ は有頂天だった。



英知は1kmほど歩いて、宮殿にたどり着いた。

幸い、テーマパークと宮殿の間には、徒歩で往来できる

道が造られていたのだ。


スマホを使い、片っ端から天使達に電話を掛けても

出る気配がない。

更に、英知とすれ違う天使に声をかけても

英知が見えていないかのように無視されるのだ。


今や人間となったカナエルはどうなんだろう?

そう思い、英知はカナエルの部屋を目指した。

その道中、廊下を曲がる際に英知は天使とぶつかった。

「いてて」

「貴方は確か、英知さん!ご無事でしたか」

天使に話しかけられた。この状況では珍しい。

スマホで情報を確認する。


名前:アラガエル

力:能力や物理的な力に抵抗できる。


「アラガエルさん、宮殿では何が起こっているの?」

「エル様が殺害されました」

「えっ」

英知は驚く。アラガエルは落ち込んでいる様子だ。

「更に、一部を除くほぼ全ての天使が

 強制的に支配されているようです。

 これは恐らく、シタガエルの能力によるものでしょう。

 私は自身の能力で、支配に抵抗できますが。


 もう宮殿は終わりです。カナエルと合流出来次第、

 英知さんとカナエルは下界に避難して下さい」


英知はモエルを思い出した。そして優しくしてくれたり

助けてくれたりした天使達のことも。

「俺は終わりなんて認めたくない」

英知は呟く。そして提案を出した。

「神様を生き返らせれば、何とかなるんじゃない?」

「無茶です。蘇生能力を持つイキカエルも操られているのに」

アラガエルはそこでハッと何かに気づいたようだった。

「私に触れている間だけ、その者に抵抗の力を分け与えられます。

 イキカエルを正気に戻してみましょう」


英知達は、カナエルの保護を後回しにして

イキカエルの方へ向かった。

「イキカエルは、普段は小部屋で瞑想しています。

 移動していなければ良いのですが」


アラガエルは懸念する。

やがて、狭い小部屋の前に着いた。

扉を開けると、イキカエルが座っていた。

「イキカエルさん、俺が分かる?」

英知が問いかけるも、無反応。

「やはり洗脳されています。ここは私が」

そう言ってアラガエルがイキカエルの肩に手を置く。

イキカエルが驚いたような表情になった。

「私は何を」

「神様が殺されたんだ。力を貸して!」

イキカエルが頷くと、三人はエルの間に向かった。


エルの間の扉の前に、天使が一人立っていた。

「やはり警戒されていましたか。厄介ですね」

アラガエルが言う。

英知がスマホで天使チェックする。


名前:イキタエル

力:視界10メートル以内に入った者の命を奪う。


これは詰んだかな?と英知は思った。

「大丈夫です。私の能力で、彼の能力に抵抗できます。

 さあ、二人とも、手をつないで」


アラガエルが促した。二人は言う通りにして

イキタエルに近づいた。

イキタエルがこちらを凝視した!

イキタエルとの距離は5メートル、3メートル、1メートルと

徐々に狭まる。


「なぜ死なない!」

イキタエルが叫んだとき、アラガエルが彼に触れた。

イキタエルも正気に戻った。

そして四人は、エルの間の大扉を開けた。


エルの間には、瓦礫の小山があった。

「エル様!変わり果てたお姿に!」

イキカエルがそう言うと、瓦礫に近づいた。

イキカエルが強く輝いた。

瓦礫は宙に浮き、一つに合わさった。

現れたのは、大きなL字の物体。エルだ。

「よくやったぞ、アラガエル、イキカエル、そして英知よ。

 さあ、賊狩りと行こうか」


エルは復活するなりそう言った。



ブ は昔を思い出していた。

エルに造られたとき。ブ は誕生の喜びを味わった。

だがそれは、すぐに絶望へと変わる。

ブ には、生殖能力がなかったのだ。

このままではやがて死に絶える。

ブ はきまぐれに変てこなこの体を造った、エルを呪った。

やがて ブ は、同じ境遇の生物を71匹見つけた。

彼らの呪われし生に同情しながらも、ブ は彼らを食い殺した。

生殖できない者は生きていても仕方ない、と ブ は考えていたのだ。

その哀れな生物達を71匹全て食い殺した時、

ブ に悪魔の力が宿った。

老いない力、自在に浮遊する力、牙にかけた者に取り憑く力、

体を霧に変える力など。

そこから ブ の復讐劇が始まったのだ。


しかし今やエルは死に絶え、天使どもを手中に収めている。

もう何も怖くない。


そう思っていた矢先、目の前の壁が壊れて

エルが現れた。

ブ は驚愕した。確かにエルは殺したはず。

「シタガエルを返してもらうぞ」

エルがそう言うと、巨大な右手が出現して

シタガエルと ブ を引きはがした。

不利を悟った ブ は、霧になって逃げようとした。

「トラエル!ツカマエル!」

「はっ!」

エルの言葉に、いつの間にか現れた二人の天使が呼応し

黒い霧を掴んだ。

黒い霧は収束し、ブ の姿に戻る。

ブ は完全に動きを封じられた。



英知達がエルの間で待機していると、

エルと、天使に拘束された、異形の者が

部屋に入ってきた。

英知はスマホチェックしようとしたが、エルに止められた。

「こやつは悪魔 ブ 。お前のスマホでは調べられん」


「どうした?早く殺せよ」

ブ は観念したのか、吐き捨てるように言う。


「そうだな、私を殺害した罪として、500年間

 封印されるが良い」


天使達は驚きを隠せなかった。

「神様、それは軽すぎないですか?」

英知はつい余計なことを言ってしまった。

「イエスマンばかりでは刺激がないのでな。

 こういう者達を残しておくのだ」


「サカラエルを堕天させないのも、そのためですか」

ブから解放されたシタガエルが、困惑気味に言った。


こうして、ブ はエルのテーブルに封印された。

封印の痕跡として、小さく黒い星型がテーブル中央に刻まれている。


英知はエルの間を出た後、すぐにモエルに電話した。

「英知?今どこ?そっちへ向かうね」

数分後、モエルが駆けつけてきた。

モエルの笑顔が英知には眩しかった。



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