01 天地創造、遭遇
一つの宇宙が誕生した。
宇宙が十分に冷えたころ、いつの間にかそこに
エルという神が暮らし始めた。
エルは、手近な恒星を見つけ、恒星の周りを回る塵に命じた。
「集まり合わされ」
こうして恒星の周りには八つの惑星が生まれた。
エルは、恒星から三番目に近い惑星に目をつけ、
マグマ状の地表に舞い降りた。
「熱すぎる。すこし冷えろ」
その言葉により、第三惑星を中心とした八つの惑星は、
それぞれ冷えて固まった。
第三惑星では豪雨が降り注ぎ、地表は固まった大地と
雨をため込んだ海に分かれた。
エルは、大陸の端にある、比較的小さな島々まで移動し、
自らの力を変質させ、多種多様な天使達を生み出した。
「惑星というものは殺風景だ。賑やかにするぞ」
エルは、天使のコシラエルと共に
植物、動物、菌類、ウイルスなどを周りの分子から創造した。
最後にエルは、天使の形に似せて人間を作り出した。
ただし、これから住む予定の天空に人間が近づかぬよう
翼は再現しなかった。
エルと天使達は、多種多様な生き物を創造し終えると、
島々の上空に移動し、雲の中に十分な広さの宮殿を建てた。
そこが、エルと天使達の住まいとなるのだ。
第三惑星が5回自転する間に、エルと天使達は
これらの仕事を成し遂げた。
そして2回自転する間、休憩をとった。
こうして七日のうち二日間は休む習慣が生まれた。
月日は流れ、数万年後。
天空の宮殿の下にある島々は、
高層ビルが立ち並ぶ、立派な国家を形成していた。
英知は今年から市立中学へ通う、普通の中学一年生である。
授業も終わり、部活に入っていない英知は
自転車を漕いで、自宅に向かう最中だった。
その時、自転車の真ん前に何か大きな物が落下してきた。
英知はよけ切れず、それに衝突した。
自転車から投げ出される英知。軽く宙を舞って
道路に叩きつけられると思いきや、何者かに両腕でキャッチされ
結果無傷だった。
「すみません、ご無事ですか?」
抱えられた英知をそっと歩道に降ろすと、何者かはそう言った。
その者は真っ白な衣服を身に着け、背中には純白の翼が、
頭上には無機質な輪が浮いていた。
英知よりも背が高い。大人か?
「周囲をよく見ていなくて、貴方にぶつかってしまいました。お怪我は?」
英知が茫然としていると、怪しげな白い大人が再び話しかけてきた。
「うん、大丈夫です。って、あなた空から落ちてきましたよね?
その羽と輪は何ですか?天使のコスプレですか?」
英知はまくし立てた。
「コスプレが何かは分かりませんが、私は天使、サマヨエルという者です」
自称天使、サマヨエルの返答に、
頭のおかしい人なのかな?と英知は訝しんだ。
「失礼ですが、あなたが天使だという証明はできますか?」
英知は思い切って聞いてみた。
「そうですね、ええと、こんなのはどうでしょう?」
サマヨエルは答えた折、すぅっと地面から浮かび上がった。
間違いなく人間離れした何かだと英知は判断した。
「天使って本当にいたんだ」
すこし間を置き
「じゃあ神様もいるの?」
と英知は口にした。
「いらっしゃいますよ」
まじか。宗教や神話などのオカルトは信じていない英知だったが
たった今、少しだけ信じる気になれた。
「その、サマヨエルさんは何かこの付近に用事があるの?」
「いえ、特に何もないのです。私は極度の方向音痴でして
宮殿からうっかり飛び出してしまい、戻れなくなったのです」
宮殿をちょっと見てみたくなった英知だった。
英知はちょっとひしゃげた自転車に鍵をかけ、歩道の脇に置いた。
「宮殿の位置は分かる?」
「分かりますが、先ほど申し上げたとおり、私は方向音痴ですので
自力ではたどり着けません」
英知はスマホを取り出した。
「俺を連れてってくれれば、役に立てるかも知れないよ?」
サマヨエルは首を傾げたが、何か決断したらしく
英知を抱き抱えてゆっくりと浮遊した。
「宮殿はここから西南西の方角にあるのですが、
西南西ってどっちなんでしょうね?」
英知はスマホを起動し、地図で方角を確認した。
「あっちかな」
英知の指さす方角を見ると、サマヨエルは一度力強く羽ばたき
西南西上空へ加速した。
30分は経過しただろうか。英知はサマヨエルと共に
かなり上空の雲が密集した地帯にいた。
視界は雲に遮られてよく見えない。
「サマヨエルさん、宮殿はどこ?」
「ちょうど真下ですかね。ところで真下はどちらなのでしょう?」
英知が無言で下を指さすと、サマヨエルはゆっくりと降下した。
急に視界が開けた。
雲の壁に囲まれた広いスペースに、荘厳な宮殿が佇んでいた。
「サマヨエルさん、あそこ!」
英知の指先にしたがって、サマヨエルは宮殿の入り口まで移動した。
「もう降ろしても大丈夫でしょう。宮殿には床がありますので」
サマヨエルに降ろされた英知は大きく伸びをした。
「貴方様のおかげで無事宮殿に戻れました。本当にありがとうございます」
サマヨエルの感謝の言葉を聞いていると、入り口から
赤い服を着た少女が出てきた。彼女も天使の格好だ。
「サマヨエル、あんたは道に迷うから宮殿から出るなと
何回も言われてるでしょ!あら、その少年は誰?」
「すみません、モエル。この方は」
「俺、英知って言うんだ。よろしくな」
英知はサマヨエルの言葉をさえぎって、モエルと呼ばれる天使に話しかけた。
モエルは結構な美少女なので、印象に残りたいという気持ちが
英知には少なからずあったようだ。
「英知、ねえ。見たところあんた人間ね。人間が神の宮殿に
勝手に入っていいのかしら?
エル様に許可を貰わないとね」
「エル様って?」
「偉大なる神様よ。許可を頂いてくるからそこで待ってて」
(その必要はない)
英知と二人の天使の脳内に、声が響き渡った。
「エル様!」
「エル様!」
天使二人が同時に口走った。
(英知よ、サマヨエルを助けた礼として
宮殿に自由に出入りする許可をやろう。
もし帰りたくなったらモエルを派遣しよう)
「エル様、私の恩人に対し寛大なる処遇、ありがとうございます」
サマヨエルが感謝の言葉を口にした。
「じゃあ、まだ時間もあることだし、宮殿内を見学しようかな」
英知が言った。
つづく