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3―1 盗賊団のシスター

 人里離れた美しい湖畔の森に、教会の総本山がありました。たいへん大きな門の前には、ケガ人と病人がたくさん並んでいます。ここでは巡礼にきた人々の傷や病を回復魔法でなおしているのです。

初めて教会に着いたとき、少女は言いました。

「女王様の紹介状を使えば、あなたは客人として教会に迎えられるでしょう。私はひとりのシスターとして、何もかもを捨て貧しい人々の為に尽くしたいと思います」


 教会の客人室からは、短い列と長い列が見えます。短い列は貴族や裕福な人たち、長い列は貧しい人たちです。地位もお金もない人は、長い時間を待たされるのです。

 少女はシスターとして、教会の治療室で人々を治療する日々を送っていました。待っている人がたくさんいるので、朝から晩まで忙しく動き回ります。夕食はお粥や芋だけ、眠る部屋は四人で共同です。本来、回復魔法を使えるような人なら、もっといい仕事先はいくらでもあります。客人室を訪ねてきた少女が、教えてくれました。

「相部屋のシスターに、夜になると誰かの遺骨を少しずつ噛んでいる人がいます。彼女は貴族しか入れない賢い学校の卒業生のようです。なぜこの場所にいるのか、遺骨は誰の物なのか、誰も知りません。私も、亡国のナイトであり女王直属のメイドだったということは話しません。みなそれぞれに胸に秘めた思いがあるのでしょう。毎日、私たちは疲れ果てて夜を迎え、彼女が骨を噛む音を聞きながら眠るのです」


 ある夜、突然体をゆすられ目を覚ましました。少女が客人室に忍び込んでいます。

「起きて、盗賊が忍び込んだようです。ついてきて下さい」

 客人室から教会の立ち入り禁止区画へ進んでいきます。最大の礼拝室には秘密の入り口がありました。深夜の闇の中、慌ただしく走り回る音や神父らしき悲鳴が聞こえます。廊下を進むと、異民族風の女がほのかに輝く剣を持って立っていました。

「これは教会の宝剣だ。私たちがもらっていく。シスターごときが立ち塞がるとはいい度胸だ」

 女盗賊は廊下の壁に宝剣を走らせます。剣は川の水をかきわけるように、石壁を切り刻んでしまいました。少女は動じず、女盗賊を見つめます。しばらくにらみ合いましたが、女盗賊は一つうなずくと剣を収めました。そして壁を力強く蹴ると、刻まれた壁が崩れていき、奥から隠し部屋が現われました。溢れんばかりの金銀財宝と、若い女たちのはだかの剥製が並んでいます。

「お前は何の為に教会に尽くしている?これを見てもまだ教会の味方でいられるか。この世には貴族と貧民がいて、豊かさはいつも独占される。この財宝は、虐げられた同胞たちに分け与える。お前は見どころがある。私たちについてこないか。貧民より劣る賤民の生き方、きっと知見になるだろう」

 背後から盗賊団が現われ、秘密部屋の財宝を持ち去って行きます。と、奥から強烈な閃光がまたたきました。少女に突き動かされ、廊下に倒れ込むと、そのすぐ側を光の激流が通り過ぎました。女盗賊も何とかかわしたようですが、盗賊団の半数は巻き込まれて跡形もなく消えてしまっていました。廊下の奥に、僧侶の影が見えます。少女は叫びました。

「あれは『浄法』という魔法です。回復しかできないはずの『聖法』を攻撃に転用した禁忌の法。こんな教会の中で使用するなんて。でも、再び撃つには時間が掛かるはずです」

 女盗賊はすぐに立ち上がりました。取り巻きを連れてその場から脱兎のごとく駆け出します。少女は彼女らに手引きし、ついに盗賊たちを教会から脱出させました。


 盗賊団の馬車は夜通し走り続け、やがて追っ手は来なくなりました。団員たちは広い馬車の中で歌えや飲めやの宴会を始めます。早朝、森の拓けた場所に出ると、そこには数えきれないほどの馬車が並んでいます。馬車から異国風の人々がつぎつぎ現われ、起き抜けに盛大な歓声を上げました。宝剣を持った女盗賊が、広場を指して言います。

「私たちの同胞だ。やっと彼らに飯の種を分け与える事ができる。多くの団員を失ったが、ここ中にすぐに名乗り上げてくれる者がいるだろう」

 早朝の歓声は、止むことなく盗賊団を祝福しました。

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