2―2 女王様のメイド
生活が豊かで、活気のある城で、政治が不安定となれば、夜の会食はおだやかではすみません。にこやかに話しながら、将来の偉い人や結婚すべき人はだれか、みな目を鋭く光らせます。お酒を運ぶメイドの腰に貴族が腕を回し、次の夜には専属のメイドにしてしまうのもよくあるお話。飾り立て、気取りあい、そして騙し合うのです。会食の別れ際、「どうぞお楽しみを」などと口々に言って寝室に引き上げてはそれぞれの夜を営み、そして時には夜の相手に扮した政敵の刺客にひと刺しされる不幸な貴族もいました。
女王専属のメイドとなれば、そこらの貴族よりも偉い人たちです。時として、男系の王を支持する勢力からメイドの命を狙われるようになっていました。その話を耳にした少女は、変装して直属メイドたちのあとを付けるようになりました。ある日、メイドが夜の城内で刺客に襲われているのを見つけます。少女はすぐに飛び出さず、メイドが倒れて刺客が立ち去ったのち、駆け寄りました。メイドの傷を魔法で塞ぐと、少女は何も言わず立ち去ります。驚いたのは刺客たちです。確かに殺したはずのメイドが、翌日には何事もなく仕事をしているのです。依頼主の貴族はミスをした刺客は殺していきましたから、刺客たちは気が気ではありませんでした。
ある日、またもメイドが襲われて倒されました。刺客が立ち去ったのを見計らって少女は飛び出します。ところが、倒れたメイドは大きなイチゴを何個か握りつぶして血に見せかけているだけでした。少女の背後から、先ほどの刺客が近づいてきます。少女が振り返って身構えると、刺客はマントを脱ぎました。それは女王様でした。
「突き止める為に一芝居うったの。やはりあなただったのね。褒美をとらせましょう。そのまえに、どうして助けてくれるのか、教えて下さるかしら」
少女はまばたきもせず女王様を見つめ、ぼうぜんとして言いました。
「あなたに、恋をしました」
「ふっ」「くっ」女王様と横たわるメイドが同時に吹き出しました。女王様は続けて愉快そうに笑い、少女はひどく赤面してうつむいてしまいました。
ほどなく、少女は女王様の側近メイドとして、異例の抜擢をされました。命を救われた他の側近メイドたちも、少女を温かく迎えました。そればかりか、夜な夜な女王様の寝室に消える新人メイドと、その怪しい夜の営みについて、見て見ぬふりして黙っていてくれました。
少女はときおり図書館にやってきて、現状を教えてくれました。でも最近の女王様との生活ぶりについては、頬を赤らめて口をつぐむばかりです。