2―1 女王様のメイド
春のひざしが気持ちの良い日、少女とふたりで平たい岩の上で寝そべっています。きれいな川が流れるほとり、下着姿で日光浴をしていると、とても穏やかな気持ちになりました。近くの木には、清流でしっかりと洗った衣服がきぶん良さそうに揺れています。少女はお得意の古い民謡を、軽やかに歌っていました。
「決めました。わたしは、メイドさんになろうと思います。剣の事は忘れて、毎日まいにち、たくさんの服やシーツを洗って、かたっぱしからお日様に干すのです。多ければ多いほど、いいです」
少女はそう言って体を起こし、尾根の向こうに見える大国の城を見つめました。
はたして少女は大国の都に着くなり、その日のうちに城の雇用所へ掛け合いました。窓口では門前払いをされかけましたが、少女の人当りのよさと、ふしぎな本の変化を見せたおかげで、何とか採用されました。
「よかったですね、あなたも城の図書館の司書として雇ってもらえて。私も明日からは住み込みのメイドです。お互い頑張りましょうね」
都は見渡す限りに石づくりの建物がそびえ、通りや広場、市場には人で溢れています。人と馬と車輪の音がたえまなく響き、街に流れる川には大小の舟が往来しています。豊かな人々は生活のためだけに生きるのに飽き、音楽や踊りやぜいたくな食事を楽しみます。その中心にある城とあっては、たいへん立派なつくりで賑やかなのも当然のことです。おおくの王族・貴族、たくさんの官吏・メイド、膨大な兵士たちが城に住み、活気に満ちていました。そして城の一番上に暮らすのが、まだ十九歳になったばかりの女王様です。この国初めての女性の王様で、賢くかつ冷酷であると噂されています。女王となってまだ日は浅いこともあり、城のなかには男性の王様を望むひとたちも多くいました。
少女は新人メイドとして、きりきりまいに働きました。あまりに頑張るので、すぐに先輩たちから仕事を押し付けられるようになりました。少女は挫けず涼しい顔で片づけてしまいます。やがて一目置かれるようになりましたが、不満を持つ人は残っていました。
少女は給仕場の裏手へ連れて行かれると、大柄な年長組のメイドたちに服を脱いでひざまずくよう言われました。少女が断ると、ひとりのメイドがほうきの柄を振り上げて襲い掛かります。少女はひらりと身をかわし、メイドに足を掛けて転ばせました。メイドはひどく膝をすりむきましたが、すかさず少女が魔法を使って膝を治してしまいました。回復魔法を見たのはみな初めてで、驚きを口にして立ち去ってしまいました。驚いたのはメイドたちだけではありません。執務を抜け出してきた女王様が、偶然その様子を見ていたのです。
「メイドが『聖法』を使うなんて、聞いたことがないわ。軍でもごく少数しか使えないというのに。あなた教会のスパイかしら」
女王様の高貴で美しいいでたちに、少女は言葉が出てきません。あどけなく戸惑う少女を見て、女王様は疑いをといて立ち去って行きました。少女はその後ろ姿をじっと眺めています。何ということでしょう。少女は女王様を一目見て恋に落ちてしまったのです。