1―3 亡国のナイト
城下町の広場の掲示板に、新聞が掲げられています。一五歳になったあの少女が街の剣術大会で優勝し、城の有望な兵士として迎えられたと書かれていました。掲示板を囲んだ人々が口々に、彼女の達人のような軽やかな身のこなしや、可憐で品のある振る舞いを褒めています。今や少女はこの街、いやこの国の有名人でした。少女はしばしば人目を盗んで城を抜け出し、会いに来てくれます。
「城の兵士になれて、本当に幸せです。父の厳しい訓練に耐えた甲斐がありました。城では水を自由に使えて毎日体を洗えるし、服はメイドさんが洗濯してくれます。私は身分の低い出身ですから、周りからはいい目で見られません。でもいつか必ず、お姫様の側でお守りするナイトになってみせます。辛くなった時は、また本を読んでくださいね」
周りの兵士たちは、少女にきつく当たりました。兵士はみな身分が高い出身で、同じ学校に通っていたので、少女は仲間はずれだったのです。訓練でいじわるされたり、部屋にいたずらされたりしました。それでも少女は剣の腕では誰にも負けませんでした。悩んでいる人や困っている人がいれば優しく励まし、部隊を任されれば素早く指示を出してよく動かしました。街の人さらいや、街道沿いの盗賊たちを討伐していくにつれ、少女の味方が街にも城にも増えていきました。そして一部では、お姫様と兵士の少女がこっそり会って身分を越えて友達になっているという噂が広まっていました。
今日も少女は城に近い宿に忍び込んできました。ピカピカのナイフやフォークを両手に楽しそうに言います。
「見て下さい、お姫様からカトラリーの一式をもらったんです。食事会には各人が自慢のカトラリーを持ち寄るのがしきたりですが、一番のお客様には、ホストが用意して貸し出します。つまり、お姫様はわたしの事を、いちばんのゲストだと認めて下さったのです。こんなにうれしい事はありません。誰にも言わないでくださいね、ばれたら大変ですから」
ほどなく、少女はナイトの称号を得て、お姫様の護衛部隊になりました。城じゅう、街じゅうが少女を祝福します。昼はお姫様の忠実なナイトだが、夜になると身分を越えたお友達……夜、お姫様の部屋から若い女の楽しげな話し声が聞こえる、というのは城では有名な話でした。近いうち、少女が部隊長に抜擢されるのではないかという声も聞こえてきます。