1―5 亡国のナイト
見渡すかぎりの草原が、早朝の風に揺れます。朝焼けの空には消えかけた星がうっすら残っています。あたりは風が草を撫でる音しかありません。草原は女王様の城から馬車で三日ほど北にあります。街道も村もなく、野良犬すらいません。
少女は何もない空間に手をかざしました。光の輪が広がります。
「この中にいれば、誰にも見られず、誰も触れられません。どうぞ中に」
少女に言われるまま、光の輪の中に入ります。空間が一度うるんだように波打ちましたが、それが収まると後は何も変わりません。
「大丈夫、消えていますよ。じっとしていてくださいね」
そう言うと、少女は一人歩いて行きます。ギターケースを持って早朝の草原を歩く姿は、まるで絵本を切り取ったようです。少女は足を止め、遠くの音に耳をすませました。沈黙は永遠に続くかのようです。
何も聞こえない時間は、唐突に破られました。地平のふちが黒く濁ったかと思うと、くぐもった地響きが聞こえてきました。次に土煙が見えてからは、すぐにすべてが明らかになりました。まず巨大な獣たち、上空を飛ぶ悪魔たち、そして数えきれない甲冑の兵士たちが押し寄せています。軍国の侵略軍が、女王様の城へ攻めてきたのです。少女はギターケースを持って、軍団に向けてゆっくり歩いて行きます。人語を話す猪の獣が少女を笑いました。先頭の兵士が少女をはたき倒そうと槍を構えました。
もうすぐぶつかるその瞬間に、少女はギターケースを開きました。中には宝剣と魔石が入っています。宝剣は輝いて右手に収まりました。魔石は怪しく煌めいて左手の指に絡みつきました。少女の背中が膨らんだかと思うと、光がはじけました。少女の背中から白く美しい翼が生えています。
「我こそは貴国に滅ぼされし亡国のナイト。命奪われし姫の無念、いま晴らしてくれる!」
そう叫ぶと、少女は剣を抜きました。たった一人の戦争が始まったのです。
少女が宝剣をひと薙ぎすると、兵士たちはたちどころに切り刻まれていきました。襲い掛かる獣どもは、左手からほとばしる『冥法』の火に焼かれていきます。空を舞う悪魔は、右手の『浄法』の光で撃ち落とされていきました。軍全体が少女を取り囲んで攻撃しています。少女は獣の強烈な一撃で吹き飛ばされ、兵士のやりに串刺しにされ、悪魔の風で切り刻まれました。しかしすぐに『聖法』で回復して立ち向かいました。軍の侵攻は止まり、混乱の渦が巻き起こっています。




