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4―4 賞金首の吟遊詩人

 上空に、一部だけ星が見えない空がありました。それは段々大きくなってきて、やがて風とともに大きな生き物が降ってきました。人々は驚き、好奇の目を向けます。人の形をしていながら、黒い翼が生えていました。そう、お嬢と同じ種類の生き物がそこにいます。翼の生き物はお嬢よりもはるかに邪悪で、純粋な存在でした。

「ここに賞金首がいるじゃないか。人間どもの目は節穴か。弱らせて持ちかえらせてもらおう」

 翼の生き物は指先から激しい炎をほとばしらせました。『冥法』に違いありません。少女はとっさに身をひるがえし、住宅街の暗がりへ駆け出しました。周囲の人々を巻き込みながら、翼の生き物は追ってきます。辺りは一変して大混乱となり、人々は我先にと少女から遠ざかりました。先ほどまで少女に降り注いだ歓声は罵倒に変わり、声は高まるばかりです。少女は剣術も聖法も使わず、何とか人のいない路地裏まで逃げ込みました。翼の生き物が少女へ爪を立てようと突っ込んできます。ギターケースを身構える少女の前に、何者かが横切りました。何者かが腕を大きく振ると光のしぶきがばら撒かれ、巻き込まれた翼の生き物は輝きに飲まれて消滅してしまいました。

「不意打ちなら、これくらいの事はできます。無事ですか」

 背の高い女でした。教会の物とも異なる、高貴な服に身を包んでいます。少女は構えを解き、女を見上げて言いました。

「ずっと私のまわりで正体を探っていたのは、あなたですね」

「そうです。盗賊団のシスター、女王のメイド、そして亡国のナイト。あまり時間がありません」

 高貴な女は少女の肩に優しく手を置きます。

「この国は、悪魔と手を組み、苛烈な侵略を計画しています。今まさに、城の裏側から大規模の行進が始まっています。このフェスティバルは、出陣から民衆の目を逸らすのが目的なのです。進軍を足止めしてください。こちらの準備ができたら、必ず迎えに行きます」

 少女は首を振って、声を固くしました。

「私はもう力を使わないと決めました。人の目に届かない場所で穏やかに生きていたいのです」

「そう、あなたの力は大きすぎる。人間の世界では扱いきれないほどに。悪魔もあなたを味方に呼び込もうと本腰を入れています。でもその話は後にしましょう。進軍先はどこか目星はつきますか、女王のメイド。いま動かないと必ず後悔しますよ」

 少女は目を見開いて口を手に覆いました。

「急いだ方がいい。愛した人を守りなさい」

 女は背を向けて数を歩くと、淡い光のなかに消えました。

 少女はうつむいて、肩を震わせました。声なき涙を流した後で、こちらに向けて話し始めました。

「フェスティバルは終わって、今では戻る場所はありません。戦わなければ、過去のよりどころさえ失われてしまう。ここから移動します。そのあいだ、本を読んでくれませんか」

 鞄の中には楽譜が入っていました。ギターは群衆に紛れて粉々になってしまったでしょう。音符を眺めていると、それはやはり文字に変わっていきました。


『高校受験は失敗して、私立に入った。まわりの誰も彼もが、競争に負けた無気力な人々に見えた。名前を思い出せる教師は一人もいない。一緒に弁当を食べていたクラスメートも怪しい。母の混乱は致命的だった。いくつかの被害妄想で近所に迷惑をかけ、同じ市内を何度も引っ越しした。父は単身赴任で、一年に一度しか戻らなかったし、戻れば母とひどい喧嘩をした。何かがおかしいと分かっていたけれど、自分も兄弟も母を救わなかった。引っ越し先の近所に、製糸工場が潰れたあとの広大な更地があった。毎晩のように歌をうたって更地を歩き、テントを買ってここで暮らそうかと夢想した。程なくして建売住宅が次々と建てられるようになると、今度は部屋にこもって映画を見るようになった。画面の向こうで、いつもヒーローは戦いに勝利し、たいてい孤独だった』


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