4―3 賞金首の吟遊詩人
軍国行きが決まると、行進はかえって賑やかさを増しました。フェスティバルが終われば、一行は解散になるでしょう。もしかすると、実はパレードを嫌っていた軍国から皆殺しの目に遭うのかも。寂しさや恐怖が、残り少ないパーティーを楽しもうとする気持ちを昂ぶらせていくようでした。少女は軍国に近付きながらも、一行から離れる事が出来ませんでした。誰かがこちらの正体を探ろうとする気配は、日に日に強くなっていきます。
「それでも、この一団から離れられないのです。性別や年齢を超えてたくさんの友達ができました。こんなに楽しいのは生まれて初めてなのです。私もまた、終わりに魅せられているのかしら。あるいは、軍国との縁を切れずにいるのかもしれません。本音を言えば、私の国を滅ぼした国はどんな場所なのか、気になるのです」
軍国へ進むと、戦で荒廃した国々を通り掛かりました。物々しい軍服や国旗があちこちに見え、旅人たちを圧倒しました。けれど、屋台の店主は毎晩店を開き、国を失い荒廃した街に暮らす住人達を慰めました。少女は亡国の民謡を歌い、心に傷を負った人々の涙を誘いました。
見ているだけで息苦しくなるような城壁がそびえます。この関所をくぐれば、そこは軍国の都です。屋台の店主が鼻歌を歌って真っ先に門をくぐり、ギターケースを抱き寄せた少女が先頭の集団に続きます。突然、ファンファーレが鳴り響きました。軍服を着たブラスバンドが、厳かな音色を響かせます。広場に行進や踊りの列が交錯し、誰ひとり足音を乱さないパレードが続きます。広場を取り囲むように、おびただしい住人達が無表情で手拍子をしています。広場の中央には国旗と、将軍と思しき肖像画が掲げられていました。
一連の催しが終わると、何の挨拶もなく軍は引き上げていきました。屋台の一行も、都の住人達も、困惑しています。ほどなく、屋台の店主が広場の中心で店を構えはじめました。仕方なしに、という感じで旅人達も椅子を並べたり、机を持ち出したりしはじめます。ホントにいいのかな、という雰囲気で都の住人達が列を崩して近くに様子を見にきます。そういうことなら、という振る舞いで、楽器隊が音楽を鳴らし始めます。何だかおっかなびっくりで人々はワインを注ぎ始めましたが、だんだん行動が行動を呼び、会話が冗談になって伝染し、やがて誰にも邪魔されないのだと分かると、盛り上がりは一気に爆発していきました。旅人達は人生で一番のひと騒ぎを起こそうとやっきになりました。都の住人達も、何年かぶりの解放とばかりにハメを外しました。軍服を着た男たちが、難しい顔をしながら上等のワインを屋台へ運んできます。どうなってもいいと軍国のワインを口に着ける若者がいて、彼がいつまでたっても極上に酔うばかりと分かるや、皆で争うようにグラスへ注ぎ入れました。軍国の兵士もこっそりワインを飲む輩がいて、人々は安心して酔いの騒ぎを続けることが出来ました。曲芸師は危険な技を次々に決め、音楽隊は聞いたことのない速いテンポで楽器を奏でます。誰かがトランプで大金を手に入れ、決闘まがいの力比べが野次を呼び、建物のすきまで男女が妖しく重なりあっていました。
日が暮れてますます騒ぎが大きくなる頃、少女はギターを取り出して大いに歌いました。あらゆる人の喝さいを受け、歌声を祝福されました。演奏が終われば手拍子が次へ次へと促して、いつまでたっても終われません。少女は困り顔をしながらも、レパートリーを片っ端から弾いていきました。少女が空を見上げると、にぎやかな広場に負けないくらいの星々が瞬いています。フェスティバルは成功したのです。この場に居合わせる事ができたことが喜びになるくらい、かけがえのない経験でした。




