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3―5 盗賊団のシスター

 少女と二人、曇り空の高原街道を歩いていると、道中に点々と血痕が続いていました。それは街道を逸れて、横穴をひらいた洞窟に続いています。洞窟をのぞくと、奥にひどい傷を負った女性が横たわっているようです。はたして、それは今朝別れたばかりの姉御でした。まだ息はあります。少女はすぐに駆け寄り、回復魔法を掛けますが、何度やっても傷口は塞がりません。

「無駄だよ、私も色々やった。お嬢から受けた傷は治らない。なぁ、もういいから頼みを聞いてくれ。これを戻しといてくれないか」

 姉御が懐から引っ張り出したのは、宝剣と、魔石が五つ嵌められた左手でした。手は手首から切り取られています。

「何とか同胞から悪魔が生まれるのは防ぐことができた。お嬢も最後には感謝していたよ。思い残すことはあと一つ、これをシスターに受け取ってもらう事だけだ」

 少女は涙を浮かべながら剣と魔石を受け取りました。指から一つずつ魔石を引き抜き、バラバラに包んで荷物に入れました。

「ありがとう。最後にお願いだ。苦しくてたまらない。楽にしてくれないか」

 少女は震える手で姉御の額に手を当てました。姉御は幸せな表情を浮かべて、穏やかに息を引き取りました。

 洞窟を出ると、何者かが隠れる気配がしました。そのまま通りすぎると、また背後で洞窟に何者かが入っていく音がします。ほどなく、屈強そうな男の悲しむ声が響きました。

 街に入ると、手配書が出回っていました。盗賊団を手引きし、教会の宝剣を盗ませたシスターがいるとのこと。シスターは盗賊団に同行し、集めていた魔石が全て揃うと裏切って持ち逃げしたと書かれています。少女は変装のため長かった髪を切りました。宿屋で部屋を取ると、ベッドにうつ伏せになって泣き崩れました。

「私はどうすればいいというのでしょう。本を読んでください。お願いですから」

 少女の怒りと懇願が入り混じった声にせっつかれ、慌てて本を探します。盗賊が使っていた馬車が集まりやすい位置を記した地図帳を開き、文字を読みあげます。


『中学校へ上がると、ソフトテニスの新人杯で優勝した。舞い上がっていい気になっていると、部活顧問の教師に目を付けられて衝突した。ストレスで体中に蕁麻疹が出て、退部せずにはいられなかった。部活顧問は温かい言葉で見送ってやると恰好を付けていたが、かえって腹が立った。母はラケット代が無駄になったとなじってきたし、部活の友人とはすぐに疎遠になった。ラケットは粉々になるまで叩き割った。顧問はその一年後に精神を病み、学校に来なくなった。元々おかしな人間だったんだろうと思う。クラスの派手な女の子をなぜか見つめてしまう癖があって、それで因縁を付けられた。直接、間接を問わず悪口を言われ、土下座まで強要させられた。夜、ラジオを聴きながら大声で笑った。布団に入ると、明日が来なければいいのに、と思いながら眠った』


 少女は疲れ果てた体を揺らしながら、愛おしそうにほほえみました。聞き終わりに涙をひときわ多く流すと、そのまま穏やかな顔つきで眠ってしまいました。少女を思うと不憫でしたが、本を読んであげる事しかできません。なぜこんな内容で彼女が救われるのかは謎のままですが、彼女だけに分かる何かがあるようです。


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