3―2 盗賊団のシスター
盗賊たちは、自らをラーマと呼びます。彼らは毎朝、住居を兼ねた馬車の中で目を覚まし、次のキャンプ地へと進み、よきところで火を囲んで夕食を摂りました。毎日がその繰り返しです。決まった場所には留まることはありません。
馬車兼住居の窓から、日差しにかがやく渓谷が見えます。春うららかな今の季節は、川沿いで大きなマスが獲れました。少女も同じ窓から景色を見ています。道行く人は、こちらの馬車を嫌なものを見るように目を逸らしました。道を塞ぐ馬車の大きさに苛立つ人がいれば、大きな車輪の音に耳を塞ぐ人もいます。馬車は誰かのオリーブ園に勝手に入り込んで停まりました。馬車からわらわらと出てきた屈強な男たちに、土地の主が罵声を浴びせています。馬車の幌が開き、盗賊が声を掛けてきます。
「昼食だ、準備しろ。今日は姉御から話もある。罵声は気にするな、元は誰の土地でもないんだ」
盗賊は二人の姉妹によって率いられていました。宝剣を奪った肉体派の『姉御』と、魔術を使用できる無口な『お嬢』です。少女と二人で食材や食器類の準備を済ませると、団員たちは輪になって座り、姉御の話が始まりました。
「入って間もない団員が多いから、今日は私たちの目的を話しておく。同胞の中には、我々を正義の盗賊だと見なす者が多いだろう。場当たり的な盗みをやめ、裕福な悪人から財を盗み、同胞や貧しい人々に分け与える。やがて同胞の地位は向上するだろう。しかし続けていればいずれ大きな力で潰されてしまう。我々の真の目的は、それに対抗できる力を持つことだ。先日、宝剣を手にした。これから、五つの魔石を盗みに行く。それらがそろった時、我々は誰にも邪魔されることなく、搾取した富を取り返す正義をかざせるだろう」
姉御はそう話し、お嬢に目で合図をしました。お嬢が手をかざすと、団員の輪の中央で地面がちいさく陥没していきました。そこから植物の目が生え、その上に局地的な雨が降り注ぎ、芽はすぐに細い木々に成長していきます。そこに鋭い風が吹き、木々は手ごろな長さに切り分けられ、風通し良く積み重ねられると、突然発火してたき火が出来上がりました。姉御が続けます。
「お嬢は生まれ持って『冥法』が使える。土・木・水・風・火の五つの要素を操る力だ。魔石はこれらの力を何十倍にも強める秘宝だ。すべてが揃えば、私たち姉妹に敵う者はいない。さぁ、力を貸してくれ。まずはうまい昼飯を作ってくれよ」
団員たちは意気揚揚と獣をさばき、肉を焼き始めました。姉御が少女に近づき肩を叩きました。
「期待してるよ、シスター。うちに回復魔法の『聖法』まで揃えば、怖い物は何もない」
姉御が立ち去った後で、少女はこちらを見て言いました。
「私はこの盗賊団について行こうと思います。行く末を見てみたいのです。100%同意できるわけではないけれど、一つの正しさだと私は思います。剣を抜くことや、身分を明かす事まではしませんが、シスターとしての役割は担おうと思います」
そのとき、遠くの方でお嬢がこちらを見つめていました。声は届いていないようですが、目つきは険しいものでした。振り返った少女と目が合うと、お嬢はすぐに目を逸らして立ち去って行きました。




