1―1 亡国のナイト
目が覚めると、夜の森でした。ふしぎな事に何も思い出せません。目の前でたき火が燃えていました。火のそばには少女がいて、こちらを見て微笑んでいます。見回すとすぐそばが崖になっていて、遠くに街の灯かりが揺らめいています。背後には洞窟の入り口があり、その先は何も見えません。
「こんばんは、お目覚めですね。この日の為に、ささやかなお祝いを用意したんです」
少女はチーズの乗った粗末なパンと固い干し肉が入ったスープを差し出すと、自分の分をとても美味しそうに食べ始めました。実際に食べるとそれほど美味しい物ではありません。フォークは一本しかなくて、少女と代わりばんこで使い回しました。
「わたしは普段、こんなに贅沢な物を食べられません。いつも穀物をお湯で煮たドロドロしたものを食べています。フォークなんて使えなくて、手づかみか直接口を付けるかして食べています。でもいつか、今みたいな食事を毎日食べて、夜でも明るい建物の中で暮らしたいんです」
少女はフォークを街の灯りに向けて伸ばしました。よく見ると、街に見えていたのは中世のお城で、それもすぐそばにそびえている様です。窓から見える明かりがあまりに小さくて、遠くにあるように錯覚していたのでした。
「このフォークはお姫様からもらったんです。いつかお姫様をお守りするナイトになりたい。そのための力が、わたしにはある」
少女はそばにあった剣を引き寄せると、するどい目つきで周りを見回しました。ほどなく洞窟の陰から盗賊たちが駆け寄ってきました。男たちは少女が食料を盗んだことを罵り、襲いかかってきます。少女は剣を抜くと、華麗な身のこなしで盗賊たちを切りつけ、たちまち血まみれになった大男たちは動かなくなりました。少女は盗賊の服で剣の血を拭くと、気を失った盗賊たちに手をかざします。そして手の平からほのかに光る明かりで傷口を塞いでいきました。
「わたしには才能があります。かならず、今の身分から立派になって見せます」