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だいすきよ

グランドルは確認する。

「私など、相手にしていないと」

「どうしてよ。どこでそんな風に誤解したの?」

アイスミントは、少し泣きそうな顔でグランドルを責めるような顔をしている。


「見ただろう。私の記憶を。いつも、別の者を」

「見たけど、それは私じゃないでしょう? 私はグランドルが好きなの。あなたに何度も惚れちゃったの! ごめんね!」


グランドルは未だ信じられない気持ちでアイスミントを見た。本当に泣きそうで、なぜか悔しそうだ。

「抱きしめて、良いか?」

「どうぞ!」

グランドルが手を伸ばして、抱き寄せる。

「もぅー」

と呆れたように言われた。でも、嫌がってはいない。


顔を上げたのを見つめる。顔が赤い。困ったような、こちらの様子を伺う表情で、それでもアイスミントが照れていた。グランドルは確認する。

「本当に?」

「信じない龍ね! 本当よ、もぅ」

「笑ってくれ」

「んー」

ちょっと唸ってから、呆れたようになってニコ、と笑ってくれた。


「本当にあなたが好きなの。信じて、大好きよ。あなたに恋してる」

じっと見つめる。じっと見つめ返してくる。

本当だ。

彼女は視線の先の者に恋をしている。


徐々に自分の顔にも赤みが差していく。鼓動が早まる。


グランドルは彼女の頭に自分の頬をすりよせた。

「あなたが恋しい。気が狂いそうだと思う程。誰よりも大切だ」

グランドルは一旦頬を上げる。見つめる先に、安心したように嬉しそうに笑ったアイスミントがいた。


「ねぇ。私だけを、愛してね。私が生きている間だけでいいから」

「勿論だ。あなたしかいない」

と即答した。


「ねぇ」

アイスミントの腕が伸びてきてグランドルの首にかかった。

「私、旅でね、女の人たちに酷い嫉妬をしてたのよ。キスされてたでしょう。羨ましかったの!」

アイスミントが首を抱き寄せるようにして、グランドルの頬にキスを贈った。

ひどく懐かしい甘美さが広がっていった。


お互い笑む。顔をそのまま近づけて唇づけた。

私のものだとグランドルは思った。


***


アイスミントは、魔王を倒した勇者として国から褒美が出た。

お金は持ち運びに困るから断ったらしい。

アイスミントは、今のところアイスミントにしか使えない聖剣『戦乙女の剣』を貰う事にした。

その他、持ち運び式簡易食糧庫。


王国の魔法騎士であるレンは、恋人と結婚することになった。

褒美は、彼女と一緒に選んだちょっといい一軒家と、家具もろもろ、にしたそうだ。

加えて毎年に分けてお金を貰えるらしい。生活には困らない、と笑っていた。


ハヴィは、研究棟に戻って、長旅で捕まえまくった魔物などについての研究生活に戻るという事だ。

褒美は、王家秘蔵の書庫を自由に閲覧していい権利を、ものすごい交渉の末にもぎ取ったらしい。


グランドルは、褒章は出なかった。別に要らん。


***


魔王を倒したとはいっても、魔物はすぐに鎮静化するわけでは無いらしい。

アイスミントは、各地の魔物と戦う旅に出ると言った。

「ね、グランドル。一緒に来てくれるよね?」

わくわくと目を輝かせる彼女の提案を断る理由は一切ない。落ち着いた気分で、一応確認してみる。

「王都での暮らしに戻らなくても構わないのか?」


「グランドルと一緒にいたいの。ずっと人の姿も窮屈だと思うし、世界を旅してまわった方が良いでしょ? 魔物を抑える必要があるのは確かだし」

「あぁ、そうだな。有難う。私のための選択をしてくれたのだな」

確認できた理由に目を細めて笑うと、アイスミントも嬉しそうにした。


「アイスミントと色々回るのはとても楽しそうだ」

そういえば、魔王の配下である獅子たちも、どのように存在しているのだろう。

戦う事になるかもしれないが、会いたい気持ちもある。確認してみたい。


そうか、この旅のために、褒章は剣にしたのだなと思い至って、感激した。


***


龍の姿で、人の姿で、グランドルはアイスミントと世界の冒険の旅に出る。

色んな場所で景色を見て、色んな町を訪れた。長期滞在で暮らした町もある。


情報を集めて、魔物が狂暴化したままの場所を調査したり討伐したりする。


ちなみに獅子は、魔王を倒した影響なのか、ほとんど力を残さない映像のような状態で、美しい湖に浮かぶ島の遺跡で寝そべっていた。

『貴殿か。久しいな』

と目を細めての言葉だけが聞き取れて、その後は聞き取る事も出来なくなった。


このまま消えていくのだろう。

足元に黒い植物が芽吹いている。

ほとんど消えそうな獅子が明らかに愛でていて、ひょっとして花でも咲くのかもしれない。


アイスミントが、気になると言ってハヴィに連絡し調べてくれた。

分かったのには、それはひどく成長速度が遅い植物で、とても希少種らしい。

黒い可愛い花が咲くのに、80年ほどかかるとか。


獅子は花を見る前に消えてしまうのだろう。

しょせん影だとグランドルは思いながらも、その姿を目に焼き付ける。


***


アイスミントに、ある日ハヴィがポツリと漏らした。

「グランドルが魔王を倒して、僕たち戦力外だったけど、過去の文献を見かえしたらさ、僕たち結構働いていた、まぁ少なくともアイスミントは勇者に選ばれたんだと納得したんだ」


「え?」

アイスミントが尋ね返す。

ちなみに、今、傍にグランドルはいない。レンの家族に乞われて、外で子どもたちの滑り台になって遊んでいる。ひょっとして、この話をアイスミントとするために、ハヴィとレンが計らったのかもしれない。


「一応聞くけど、歴史書見るのは嫌いなまま?」

「うん」


「良いけど。一応用意はした。僕が全部説明するけどさ」

ハヴィがわざとらしくため息をついて、机に積んである本を次々取り上げて、ページを開いて置く。文字がびっしりだ。挿絵が欲しいとアイスミントは切実に思う。


「あまりにグランドルが魔王に圧勝したから、気になって過去を調べた。魔王といわれる存在は、様々な年代で出現している」

ハヴィの言葉にアイスミントは頷く。過去に魔王がいて勇者が倒してきたのは知っている。勇者になってしまったからそれぐらいは調べた。


「結論から言うと、過去に魔王と言われたものには、あの魔王の配下6体と同じのがいる。群を抜いて強い。蜘蛛に、蝶、獅子。この魔王たちは初めは人の姿で現れた。遡れば、成長期の子どものような姿だった。それが、大人の人間のようになった。本気を出す時などには蜘蛛や蝶や獅子になって現れた」

「え?」


ハヴィはアイスミントを真剣に見つめていて言った。

「思うところを言うよ。グランドルは、僕たちが一緒でなければ、恐らく魔王に取り込まれてグランドル自身が魔王になっていた」


アイスミントはその視線を真顔で受けた。

驚くと同時に、酷く納得できた。

ずっと、アイスミント、レン、ハヴィは気になっていた。魔王はグランドルによってあまりにも容易く倒された。あの魔王は、自分を幻のようなものだと言っていた。あれは、本当に何だったのだろうか、と。


アイスミントは、驚きのために声はでないながら、二度、コクリコクリと頷いて、同意を示した。


「アイスミントの意見を聞きたい。僕とレンは、そうだったのだろうと勝手に納得しているけど」

「私も今、納得したわ」

アイスミントは言葉でも伝えた。言われた内容を脳内で反芻はんすうする。そして考えながら、意見を出す。


「私たちが一緒でなければ、グランドルは、魔王の配下に下ってたと、思うの。その後取り込まれるのか、グランドルが魔王になるのかは分からないけど。でも、魔王側の実際の頂点になるのは間違いない。グランドルが魔王に会えば、そうなってしまう。・・・彼は寂しがり屋だから、魔王の事も好きだったのよ」

とアイスミントは目を伏せてグランドルを思った。


ハヴィも柔らかくため息をついた。

「じゃあ、皆が同意見って事で。僕は歴史書の編集を頼まれている。推察と明記の上、書き残しておく」

「分かったわ」


すぐにでも書きだしそうな様子のハヴィに、アイスミントは外のグランドルたちに合流しようかと考えた。

ただ、アイスミントは去り際にハヴィに聞いてみた。

「ねぇ。もし『戦乙女の剣』に選ばれたのが私じゃなくて、グランドルのところに行ったのが私じゃなかったら。グランドルは、その子に巫女の姿を重ねたのかしら。その子でも良かったのかしら・・・」


ハヴィが、面白そうに笑った。

「さぁね。グランドルに聞けばいい」

「彼は『間違えるはずない』としか言わないわ」

「信じる信じないで正解が変わるなら、その質問の意味を問いたいよ」

ハヴィの答えにアイスミントは笑った。


アイスミントは、自分が幸せだと知っている。


***


彼が魔王になるのを防げて良かったというよりも、一緒にいる事ができて良かったと思う。

きっと、魔王になったら、彼は寂しくて泣いている。ずっと恋しがって泣いているなんて、そんな寂しい世界は嫌だと思う。


一緒にいて、嬉しそうに笑ってくれることが嬉しい。自分の隣にいて愛を囁いてくれるのが嬉しい。

出会えてよかったとアイスミントは思う。


***


グランドルとアイスミントは、旅してまわっている。


時折、基本的に王都にいるハヴィから、実験を兼ねて遠隔連絡が来る。

呼ばれたり、会いたくなった時にグランドルとアイスミントは王都に戻る。龍なので、飛べば大体のところにはすぐ着ける。

ハヴィは国の一番の研究者になったようだ。訪れるたびに、部屋の中の書物が増えていて、崩れないか心配になる。


レンは結婚して父親になった。子どもたちにも会わせてもらった。会いに行くたびに大きく成長しているのが目まぐるしい。グランドルを遊び相手と認識したようで、行けば龍の姿で遊んでほしいとねだられる。

構わないので龍に戻るが、基本的にじっとしている。子どもたちは背に登ったり滑り下りたりを楽しんでいる。グランドル自身は寝そべっているだけなのでなんだか暇だ。


子どもについてはアイスミントが少し羨ましそうなのをグランドルは気づいている。

けれどこればかりは仕方なく、龍と人の間では子は成せないのかもしれない。可能性も不明だが、少なくとも現段階ではアイスミントとグランドルの間に子はいない。


***


アイスミントと楽しく過ごしている。

焦がれる者から愛情を受け、望まれて傍にいる事はあまりにも幸せに恵まれすぎている。

時折ふと恐ろしい未来に身震いする。

彼女は人だ。龍ほど永遠に生きられない。


彼女はもう、随分人間として時を過ごしている。


いつかの日ハヴィの小さな魔物たちに熱への耐性を与えたように、アイスミントにも耐性をつけることに成功したグランドルが望んだので、近頃はよくグランドルが眠っていた洞に戻る。どうしてここに戻りたくなるのか自分でもよく分からない。

眠る時には、龍の姿でも、人の姿でも、グランドルがアイスミントを抱えて眠る。

彼女の死期が迫ってくる。


彼女はクスクスとくすぐったそうに笑いながら、龍の背で、鼻先で、カギ爪で、人化した腕の中で、グランドルにこう告げる。

「大好きよ、わたしの赤い龍」

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