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夢から起きる

本日2話目

もう何度目の人生か分からない。

龍はもう、神殿との関わりすらない。人として生まれて、人と変わらずに生きている。


彼女もいる。この辺鄙な村の、村長の娘だ。

他の者より良い服を身に着けている。明るくて朗らかでリーダーシップがある。

老若男女問わず仲が良い。

龍もその中の一人だ。今回は龍の方が5年ほど年上だ。


見つけてからはずっと足しげく彼女の傍にと努めてきた。

父である村長も龍に一目置いて、彼女を任せたいなどと言ってくるほど。

肝心の彼女は、龍にも笑顔を見せてくれるけれど、親に向ける笑顔と変わらないのも気づいていた。

彼女の傍にいれるのは嬉しいけれど、彼女からの気持ちが物足りない。

だけどそれは龍の我儘だ。傍にいれるだけで最高の幸せだと自分は身に染みて知ってもいる。


なのに、彼女は龍では無い者に恋をする。

ふらりと現れた、行商人の息子などに。彼女より年下で頼りなさそうなのに。


彼女が恋に落ちるのを見るのももう数え飽きるほど。それなのにグッと心臓が掴まれる感覚には慣れそうにない。

けれど大丈夫だ、分かっている。

龍には彼女の存在が大切で、彼女が笑って過ごせるのが幸せだ。いつかの人生で、神殿の親切な人間が言った通りだ。どうあっても彼女の幸せを願う事こそが本物なのだ。


父である村長はまだ気づいていなかった。

彼女の葛藤に、龍は彼女への協力を申し出た。村長が知った時に、自分からもきちんと話をしてやると伝えておく。

彼女は安心したように、嬉しそうにお礼を言った。少し涙目で。

「ありがとう、ルゥ。本当に私のお兄ちゃんみたい。大好き。信頼してる」

「どういたしまして。ギアナ」

と龍は抱きしめて答えてやる。

ギアナというのが今回の彼女の名前だ。女なのに厳しい名前だから、もっと可愛い名前に憧れているのも知っている。


彼女が喜ぶ事ならなんだって。自分にできる事が多い事が龍にとって幸せだ。


行商人の息子に声をかけて、彼女と話の機会を設けてやる。

滞在期間を聞きだしたり、今後の予定を聞いてみたり。村の外からの人は珍しいからと予定より少し長く滞在してくれるよう計らいもする。

彼女と行商人の息子はあっという間に仲良くなった。

彼女は恋に落ちているし、彼女はとても魅力的な人だから、行商人の息子があっという間に惹かれていくのも当たり前だ。


今回は、うまく行きそうだと龍は思った。初めての事で驚いた。

また途中で彼女が死んでしまうのでは、行商人の息子に何かあるのではと不安になって気を遣ったが大丈夫そうだ。そろそろ村長に打ち明けてしまった方が良いのでは。

彼女と行商人の息子は、仲良く手を繋いで見つめ合っている。まだ少年少女の年代ながら、お互いに恋に落ちている。


龍は苦しくて寂しいながらも安堵した。

やっと彼女が、幸せに生きていける。


そんな頃に、龍の前に、人の姿をした者が現れた。

「やぁ。灼炎。お前も随分落ち着いたな」

それは、自分を人に落とした龍だった。神と祭る地域もある、輝く光を使う龍。

「人間も、ここで終わりにしよう。灼炎。我々の世界に戻っておいで。きみが欠けては世界は成り立たない」

この言葉に龍は驚いた。自分を龍に戻すつもりだったのか。


戻るとなると、気がかりと心残りがあった。

「あともう一度だけ、人間として生まれ変わらせてもらえないか。それなら良い」

と答えたが、相手は、

「今回で終わりだ。さもないと、きみは力を失いすぎて龍として戻れない」

と否定した。

「きみは気高き龍だ。戻ってこい」


この話は相手に決定権がある。龍は茫然としながら、受け入れた。

ただ、気がかりと心残りをなんとか今回で果たしたいと決心した。


翌日から、龍は彼女への恋心のアピールを始めだした。人間として傍にいられるのは今回が最後。そう思ったら、なりふりかまわず、彼女に自分を選んで欲しくて抑えられない。


だが、すでに行商人の息子と想いを通わせていた彼女は龍のこの態度の変わりようにただ戸惑うだけだった。

龍が彼女に、恋愛対象として好意を抱いている事は分かってもらえたが、それでも彼女は行商人の息子を選んだ。もうそちらに決まっていた。


龍は失恋に泣いて、彼女の元を、この村を去る事にした。

せめてきちんと幸せになれるよう、取り計らう事は忘れない。

その後で、彼女から離れたところで龍は生きた。そして、死んだ。


***


黒い暗闇が自分を包む。

世界が赤い炎でともされる。チラチラと動く熱気と蒸気の気配。

それから自分自身の身体の鼓動。


目を開けると、どこかで見た事のあるような、洞にいた。

「目が覚めたか」

と傍に、あの龍が人化した姿で浮いていた。

「やっと戻ってきてくれて嬉しい。他の龍たちも喜ぶ」


自分はまた龍に戻ったのだ。首を持ち上げて辺りを見回す。

以前とよくにた洞。馴染んた熱気。以前よりは浅い場所の洞なのか、熱気は若干薄いけれど。

きっとこの者が直したのだろう。あの昔の洞は、自分が出る時に壊してしまったのだから。


龍は自分の腕を確認した。赤い龍の腕。これは、龍の姿。


龍はなぜか気落ちして、目を閉じた。

「しばらくそっとしておいてくれ」

「良いよ。きみは元からそういう気質だった」

上機嫌の声を聞きながら、眠りにつく。


***


地底洞窟の最奥で眠っている。

眠りを妨げる者が訪れることなど、もう無い。


***


「やぁ、やぁやぁ!」

鼻先にチクチクした痛みを感じて、ふと瞼を開けた。

寝起きの視界はぼんやりするが、次第に焦点が合っていく。

鼻先で何かがチラチラ動いている。

「やぁやぁ! あっ、起きた!? ねぇ起きて!」

幻聴かと思ったのは、ここが地底洞窟だからで、人間の女の声が聞こえるはずがないからだ。


てててててん。

軽快な足取りで、鼻先から鼻頭に登ってきた。

焦点をやっと合わせてみれば、やはり人間だった。


「起きた! ねぇお願いがあるの、私たちの仲間になってくれない」


・・・


***


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


視界が明るくなった。それぞれが脳裏で直接見ていた映像が、終わったのだろう。

アイスミントは目を開けた。

一瞬ここがどこだか混乱しそうになったが、宿屋の一室だった。


レンが、ハヴィが、そして、グランドルがいる。

皆目を開けて辺りを少し確認している。

そして、グランドルに視線が注がれる。


グランドルが、顔を片手で覆って、俯いていた。耳が赤くなっている気がする。


チラチラと、アイスミントは、レン、ハヴィと視線を交わした。

どうも、かなり色んな事全てを、映像で見たと思う。


ガタン、とグランドルが立ち上がった。

顔が真っ赤だった。片手で覆うようにしているが、見えている。

「すまない、その、少し、出てくる」

「あ、うん」

と答えたのはハヴィだ。

レンも頷き、アイスミントも頷いた。


グランドルが、顔を赤くして動揺しているようだ。


パタンッと閉められてから、アイスミントたちは静かに顔を見合わせた。

「・・・アイスミント、きみさ」

とハヴィが扉からアイスミントに視線をうつして、ゆっくり確認してきた。


「うん。なに?」

「グランドルのこと、すごく、知りたいって、願ってたよね、多分、結構強い目に」

「え・・・う、うん」

気まずくて顔が赤らむ。だけど多分重要そうな確認だから素直に答える。こんなところで嘘をついて判断を狂わせるなんて命取りに繋がるからだ。今は命はかかってない場所だけれど。


「・・・あれは、俺たちは、見すぎてしまったのか?」

レンがハヴィの質問に気づいたように確認する。


「多分。だって、人間になってた部分なんて、魔王と関係ない。見せる必要、本当はなかっただろ?」

とハヴィが目を伏せて、部屋の床を見回す。部屋には、ハヴィを慕う小物生物がピヨピヨ溢れたままだ。

「あと・・・言っても、こいつらも魔物なんだ。そろってグランドルに意趣返しをしたな」

ハヴィがため息をついた。


「意趣返し?」

と聞いたのはアイスミントだ。

ハヴィが、同情的ななんとも言えない顔でアイスミントを、レンを見た。

「うん。多分、グランドルは魔王のところだけ見せたかった。なのにグランドルと契約をしたアイスミントはグランドルの事をすごく知りたがってて、使役した方のこいつらも、グランドルに仕返ししたいなんて思ってた。だから、グランドルが開示しようと思ってなかった部分まで、全てみせた」

グランドルは途中で気づいたはずだ。けれどもう契約は動いてしまっている。

止めなかったのは、きっと契約を結んだアイスミントに行ってしまう契約不履行の反動を恐れたのだろう。


ため息をついたのはレンだ。

扉を見やる。

「同情するな」

「なんていうか、ごめんって僕でも思うね」

このやり取りに、アイスミントも顔を赤くして俯いた。

自分がグランドルの事を知りたいと願っていたから、勝手に皆で記憶を覗いてしまったようだ。


「なんていうか、まぁ」

と、レンが呟く。

「戻ってきたときに、上手な遊び方と後腐れのない別れ方を教えてもらう事にしよう、俺のできる事として」

「はぁ!?」

とはアイスミントだが、ハヴィはなんだか憐れんだ目をレンと交し合って頷いている。

「それは良いね。僕も同席を希望する」

「そして女への悪口を酒を飲んで交し合おう」

「良い案だ」

「どこが良い案なのよっ! 2人だけでやりなさいよっ!」


「はぁ。とにかく、僕は再契約に戻る」

ハヴィはため息をつきながら椅子に座り直す。グランドルが勝手に解放してしまった小物生物が彼との再契約を待っているのだ。

「熱量への耐性は?」

「あぁ、それは映像展開の終了と共に全員につけられたようだ。そういう契約だったから」

「そうか。正しい履行でもなかったろうに、耐性は貰えたんだな」

「まぁ魔物ってそういう曖昧なの多いんだろうね」


レンが今度はアイスミントに、

「で?」

と声をかけて来た。

「え?」


「アイスミントは、色んな謎が解けて、スッキリできたか?」

「え・・・ううん」

「そっか。まぁ俺は男だが、良かったら恋愛相談にものるぞ。ユナももういない。俺で良ければって話だが」

「え、あ、ありがとう」

カアっと赤面する。


自分は分かりやすすぎるのだろう。グランドルを意識している事はレンにもハヴィにも分かってしまっている。恥ずかしい。

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