悪役令嬢も集まれば文殊の知恵
二日ぶりです。
今日も何時もの通り学園に通い、屋敷に帰り手習いをする。
「お嬢様、蓮花様と里香様がお見えです」
手習いが終わり一段落するとメイドが声をかけて来て、二人の来客を案内して来た。
「いらっしゃい、蓮花に里香」
「琴美、御邪魔するわね」
「御邪魔します。こんにちは、琴美」
私が部屋に招き入れたのは日達 蓮花と真鍋 里香の二人だ。
蓮花は金髪碧眼のフランス人形の様なはっきりとした顔立ちで、里香はショートカットの黒髪に縁なし眼鏡をかけた美人さんだ。因みに私は日本人形の様と良く言われる。
そんな私達には共通点がある。
皆転生者なのだ。
それだけではない、乙女ゲームの悪役令嬢なのだ。
私達が悪役令嬢に転生したと気付いたのは物心着く前。この世界に産まれて少し経った頃。
私の場合は名前を聞いた時、もしやと思った。そして、家族環境を知り乙女ゲームの悪役令嬢に転生した事を知った。
最初こそ独りで悪役回避に勤しんでいたものの、中等部に上がる時、たまたま聞いた私立名門三校の名前に他の乙女ゲームが混ざっている事を知った。
そして、同じ境遇の人間が居ないか調べた結果、悪役令嬢とヒロイン達が転生者ではないか、と当たりを着けた。悪役令嬢もヒロインも私の知っているキャラと違い過ぎたのだ。
ヒロインの奇人性と肉食性にかなり引いたのを今でも覚えている。そんなヒロインに会いたいと思うだろうか? 答えは否である。だが、同じ悪役令嬢の子達とは話が合う気がしたのだ。
とあるパーティーで蓮花と会い、カマをかけて見たら案の定転生者であった。
転生者かどうかずっとドキドキしていた私は、その時嬉しさのあまり奇声を発する所だった。ああ、危ない。
この時会ったのが外資系に根強いパイプを持つ日達グループ令嬢、日達 蓮花さんだ。この頃はまだ、蓮花さん、琴美さんと呼ぶ仲だった。
私も悪役ポジションの為か家柄は凄く良い。遡ればやんごとない方々に連なる、三条グループの令嬢でもある。
その後蓮花と連絡を取り合い、もう一つの私立高校に通う真鍋IT会社の令嬢、真鍋 里香さんと出会った。
私が『桜は君と一緒に咲く』、蓮花が『百合は君と香る』、里香が『スターチスは君と咲き誇る』という題のメインヒーローの悪役令嬢なのだ。
『桜は君と一緒に咲く』は日本の旧家の人間が多く通う皇花学園。私だけではなく、学園に通うのは多くが日本旧家の人間だ。もちろん、それ以外の人間も通ってはいるものの、外様と呼ばれ余り居心地は良くはない。ヒロインは外様の入学だ。
『百合は君と香る』は外資系グループの多いカトリック系の学園で、外国にも兄弟校のある百合の崎学園。学園のヒエラルキーは家の資産額と言われている。ヒロインは三流会社の社長令嬢。
『スターチスは君と咲き誇る』は、歴史は三校中でも新しい方だが、三校一の偏差値を誇っている。勉学に力を入れ、学年上位の成績者は模試の上位常連だ。名前は姫霧学園。ヒロインは特待生だ。
通称『花君』と呼ばれる乙女ゲームは、同会社が出しただけで、共通点は花が着いていること位と思っていたら、まさかの同じ世界だった。
「琴美どうかしたの?」
物思いに耽っていると、蓮花に声をかけられた。
「ごめんなさい。これまでの事を思い返していたの」
私はそう返した。
「これまでの事より、これからの事よ。物語は進んでいるのよ」
里香にそう窘められた。
里香の言う通り物語は進んでいるのだ。
『花君』のヒロイン達は、逆ハーレムは築かなかったものの(ゲームに逆ハーレム設定がなかったからだろう)、揃いも揃ってメインヒーロー狙いなのだ。
私はお茶を一口飲み、口を湿らすと思った事を言う。
「でも、婚約破棄されても痛くはないわよね」
私のその言葉に二人は頷く。
学校や生徒の根回しは済んでいて、婚約破棄されても契約不履行は向こうなのだ。テンプレ的に人前で婚約破棄発言されたら、悪いのはあちらと印象付ければそれで終わりである。
私の場合の婚約は同じ旧家同士で、相手方の負債を援助する為のものだ。
蓮花の場合は、日達グループの持つパイプを狙っての者。
里香に至っては、婚約者はいない。昔、口約束で婚約話は出たものの、里香が嫌がったので婚約に至っていない。里香の場合、新設会社という事もあり、出る杭は打たれる、を地で行っている会社だ。つまりパイプがないのだ。しかし、私達というパイプができ婚約者など必要なくなったのだ。
「そうね、困るのは相手方だわ。この際、放って置くのも手ね」
蓮花のその言葉に、私はこの話は此処まで、と手を叩くと注目を集めた。
「それより経営の方の話をしましょう」
そう、私達は前世の記憶を元に会社を起こしたのだ。当然未成年の為親に手配して貰ったが、収入はそれなりに多い。
没落も倒産も怖くない様に。
◆◇◆
「良く来て下さいました。日達会長、真鍋社長」
「御招き戴きありがとうございます。三条会長」
「は、初めまして。お招きいただきありがとうございます。真鍋 秀高と申します」
私の招きに日達会長と真鍋社長が料理店の小部屋に入って来る。
今日は娘の友人の父親を招いた。
互いに娘の友好関係により、社運を上げている者達だ。
「真鍋社長そんなに硬くならないでください。娘達の様に気軽に話していただけると幸いです」
「はい。お言葉に甘えまして」
私が気軽に話して欲しいと言うと、敬語のままだがスッ肩の力が抜けた。流石一代でIT家業を起こしただけあり、肝が据わっている。
「三条会長本日は私達を招き、娘達の話をするだけではあるまい」
「はい、お話が早い。お二人ともまずは席に」
日達会長が今回の会談の核心に早くも着く。流石、海千山千の妖怪と渡り合っている事はある。話が早く進むのは私としても願っても居ない事だ。
「では早速。今回は娘達の今後の事を思い、この場を開かせてもらいました」
「ふむ、婚約者の話かな?」
「私の娘は、幸い婚約者はいませんが、御二方には面白くないのでは?」
私の切り出しに日達会長がすぐさま本題を詰める。真鍋社長も流石の情報収集能力だ。
「そうです、娘達の婚約者の事です。それぞれ熱を入れている女性がいるとか」
「そうですね。私の方も、昔婚約者にと思った少年が同じ状態でして」
「ふむ、真鍋社長もか」
私の話題に真鍋社長が内々の事ですが、と苦笑して話してくれる。それに驚いた様に日達会長が声を上げる。
「全く困ったものです。相手方からの話だと言うのに」
「全くだ。息子の教育がなっておらん」
「まあまあ、まだどうなるかは分からないのでしょう?」
困ったように話す私に、日達会長は憤った様に少し声を荒げる。遅くにできた愛娘の婚約者がこの体たらくでは仕方がない。真鍋社長が宥めると、出されていた水をグイッと飲んだ。
「しかし、このままでは婚約破棄も近いでしょう」
「向こうから持ちかけて来たというのに。ふー、もしもそうなった場合向こうから解かせる」
「私もそう思っていますよ」
私の婚約破棄という言葉に、日達会長は更に一口水を飲むと、婚約破棄する手続きは相手方にさせると言って来る。私も同意見だ。
「融資などはこれから如何なされるおつもりです?」
「いきなり切るつもりはないが、控え目になるだろうな」
「そればかりは致し方ありませんね」
真鍋社長の融資という言葉に日達会長が苦々しく答える。私も苦笑しながらそれに続く。
「御子息の対応は娘達に任せましょうか」
「ふむ、今日も会っているのだろう?」
「いつも娘が御邪魔している様で」
私が娘達に任せようと言うと遠回しに、今日娘達に話し合わせているのか? と聞かれる。
「ええ、今日話をしているはずです」
「そうか、では任せよう」
「私もそれで構いません」
今日集まった時にでも、婚約者をどうするか聞くように言ってある。娘達も今頃話している事だろう。日達会長も真鍋社長も私の意見に賛同してくれる。
「では、食事を楽しみましょう」
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