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終わりの世界の始まりに  作者: 鐘縞 孔明
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第一章 1人の男

第1章 1人の男


2030年3月

「ふー、ここも駄目か。」

1人の男が地下鉄の駅にやってきた。

「メイションステーション。」


壁にかかっている、看板の埃を手で払い男が呟く。

ボロボロ段ボールで作られた家のような囲い、埃が積もったテーブル、足元には何が入っていたか分から無くなった缶詰のゴミが転がっている。


辺りを散策する男の後ろから、何者かが男に見つからないように近ずいてきいた。


「せめて、食料だけでも確保したいが。」

男はダンボーを退けながら線路隅の方に移動していく。

「何かないか。何もないか・・・お!」

男がダンボールの下に空いていない缶詰を見つけた。

缶詰を取ろうと、しゃがみ込んだ。

次の瞬間、『ゴン!』と鈍い音と共に、男の目の前がくらついた。

後からやってきた痛みに耐え切れず、男は気を失った。



「...........」

「.......」

「...」

「ん・・・・・こ・ここは・・・」

男が殴られた後頭部を抑えながら、目を覚ました。

「牢屋。」

まるで刑務所のような、鉄格子とコンクリートの壁、トイレにベットもある。

頭の痛みに堪えつつ、持っている荷物の確認をしていると、

「起きたか。」

冷たい女の声。


声の方へ視線をやると、檻の外にキツイ目をした女が立っていた。

女は軍服のような服を着て、手にはライフルを持っていた。

男は立ち上がり、女に近寄り鉄格子に手をかける。

「ここは何処なんだ。」

「お前が質問を出来る立場だと思っているのか?」

女がライフルを向けてきた。

すかさず男は後退りして、両手を挙げた。

「ちょっと待ってくれ、生き残り同士もう少し仲良くできないか。」

左手でハンドルを手前に引き、ライフルの玉を装填する音が響く。

「よくもそんな事が言えたものだ。

お前らのせいで世界がどうなったか分かって言っているのだろうな。」

女の顔が引き攣る。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。」

「とぼけるのもいい加減にしろ!お前が着ている服が何よりの証拠だ。」

銃口が男の頭に合わさる。

「ちょっ!ちょっと待ってくれ!これは・・・」

「よさないか軍曹!その辺にしておいてやれ。」

渋い男の声が響き渡り、女が声の主の方に振り向いた。

「しかし、大佐・・・」

大佐と呼ばれる男が近ずいて来る。

「まだ、そうと決まった訳ではない。話を聞いてやっても良いのでは無いのか。」

渋い声の男を見た瞬間、男は凍りついた。

「わははは、この傷か?奴らにやられたんだよ。」

右肩から左腰まで、大きくえぐり取られていた。

モンスターの爪痕。

傷口が開かぬよう、鉄板で自分の皮膚を覆い、骨にボルトで固定されていた。

「その傷、痛くないのか・・・と言うよりボルトが体に・・・」

男の発した言葉は震えていた。

「がはははは、当時はそれはそれは痛かったぞ。骨が露出してしまってな、こうやってボルトと鉄板でつなぎ止めておかないと、腕が無くなってしまうところだった。」

渋い声の男は、固定されている左腕を挙げ、腕にゲンコツを作るポーズをとって見せた。

「この通り、今では何ともない、むしろお前さんの様に驚いてくれる奴がいると、やられた甲斐があったってもんよ、がはははは」

その一言で、男の緊張が解けた。

「ところでお前さん、名前はなんて言うんだい。」

「ポケットから物を取ってもいいかな。」

渋い声の男が、銃を構えている女に目配せをした。

目つきの悪い女は、男に向けている銃を降ろした。

男は自分のポケットから、身分証を取り出した。

「これを」


(フォックスファウンド製薬会社

研究員 ジョブ・コールマン

ID90004203)


社員証を受け取った大佐の顔色が、あからさまに悪くなったのに気づいた男が続けた

「信じて貰えないかも知れないが、自分は1年前からの記憶を無くしている。

あの日、目を覚ました時に自分は裸で・・・」

「嘘を言うな!」

怒りの声と共にライフルの銃口が再び、男の頭に向けられた。

「軍曹!!!」

あたりに響き渡る大声で、大佐が叫んだ。

軍曹はすかさず、ライフルを体の横に持ち背筋を伸ばし、右手で敬礼をした。

「お前に聞きたい事が3つある。」

男は唾を飲み込み、身構えた。

「まず一つ、お前はフォックスファウンドの社員だったのか?」

少し間を置き、男がゆっくり話し始めた。

「わからない。そうだったのかも知れないが、そうじゃ無かったのかも知れない。」

大佐は男の目から、目線を外さず続けた。

「二つ、お前は今までどこにいた」

男はうつむき気味で、一点を見つめ、思い出しながら答えた。

「目を覚ました時、俺は手術台の上にいたんだ。

周りにはバラバラに引き裂かれた、白衣を着た研究者達が倒れていた。

怖くなった俺は、出口を探して部屋を見回した。

壁はボコボコに凹んでいたり、穴が空いていたり酷い有様だった。」

男は目を閉じ左手で頭を抱えながら、続けた。

「すぐ扉に向かって走っていったけど、

扉には鍵がかかっていて、

近くにいた死体からIDカードを拝借した。

そのIDカードを使って扉を開けて、その場から逃げ出したんだ。」

大佐の隣にいる、軍曹の顔が悲痛に歪んでいく。

男が大佐の持っている社員証を、右手で指差した。

「その時に使ったIDカードが、今渡したそれだ。

施設内を逃げる時に、結構走り回ったけど、施設内にいた人間は全滅だった。

いざ外にたどり着いた時に、自分が全裸だった事を思い出して、

近くにいた死体から、この服を拝借した。」

大佐は微動だにせず、男の話を聞いていた。

「その後は、なるべく一人で行動するように心がけてた。

誰が敵で味方か分からなかったから。

なるべく遠くへ、地下鉄を歩いて移動生活していた。」

男が、大佐の方に目を向けた。

「自分の名前も、歳も思い出せないんだ。

だから今は、その人の名前を使わせて貰っている、

俺の中では彼はあの酷い施設から出してくれた、救世主だから。

ジョブ。

ジョブ・コールマンそう呼んでくれ。」

大佐は眉を上げ、目を見開き最後の問いを投げかけた。

「では、最後の質問だジョブ・コールマン、

お前は生きたいか」

ジョブは直ぐに答えた。

「生きたい・・・死にたくない。生きていたい!」

「がはははは、そうだろうよ。」

大佐が軍曹の方に顔を向けて、問いかける。

「さと、どうする軍曹、

ここに、フォックスファンドの社員証を持って、フォックスファウンドの服を着て、

フォックスファウンドから逃げてきたという、記憶喪失の男がいる。

我らライフワークスの心得は何だったかな。」

軍曹が敬礼をしながら答えた。

「我らライフワークスは、

一つ、モンスターから身を守る為に、

二つ、皆が助け合い暮らせる為に、

三つ、人類滅亡を防ぐ為に、

結成された組織であります。」

大佐が頷く。

「それで、ジョブはどうする。

私から見たら彼は、施設から逃げ出した一般市民に見えるが。」

軍曹が大佐から目をそらし、ジョブの方に目をやった。

「今の段階では、危険人物と変わらないと思います。

ここから出すのは、やぶさかではありませんが、監視をつけて彼の素行調査は必要なだと思います。」

軍曹が大佐に目を戻した。

「がはははは、そうか、では軍曹、

彼の監視役をお前に任そう。素行調査と彼の世話役も任せたぞ。」

軍曹の体制を一気に崩し、大佐の前に駆け寄った。

「ちょ、ちょっとお父さん何で私が!

おかしい、絶対おかしいよ。

嫌よこんな奴と。

仮にも嫁入り前なのよ。」

大佐が軍曹の肩を叩き、落ち着かせた。

「がはははは、ジョディー、誰もこいつと寝食を共にしろとは言っておらんぞ。

監視はお前が言い出した事だろう、他のみんなはそれぞれ忙しいんだ、

お前の部隊に、彼を入隊させてやれば、監視も彼に仕事も与える事が出来るだろう。」

大佐はジョディーの肩を回し、ジョブの方に向かせた。

「ジョディー・モーリス彼女の名前だ。

生意気で、うるさい娘だがよろしく頼むよ。

今から君の監視役だ、分からない事があれば、彼女に聞いてくれ。

因みに私は、ダイス・モーリス、

彼女の父親だ、よろしく頼むよ、ジョブ。」

ダイスは、とても良い笑顔で、ジョブに挨拶をした。

ジョディーは、とても嫌な顔で、ジョブを睨んでいた。


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