表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

I Love You!

 一方、薫子の父であり、鈴木財閥の会長である鈴木昇造は、肺を煩い若くして他界した愛する妻の忘れ形見でもある、愛しい愛しい1人娘、薫子の初恋相手に会うという事で、父親としてその青年に、会いたいような会いたくないような複雑な心境だった。

 しかし、昇造はその青年を一目見ただけで、何か幸福感のような感情がわきあがるのを感じて、こう思った。


“さすがに私の娘だけあって、人を見る目がある! 

 誠実さ、勤勉さが、そのたたずまいから滲み出ている。

 それに、なんと力強く澄んだ瞳をしているのか! 

 その瞳の奥には、どんな困難にも立ち向かい、乗り越えて行ける屈強な精神力と、聖さが見てとれる。この青年ならどんな状況においても、娘を大切にし守ってくれるだろう。まさに、神様が二人を出会わせて下さったのだ! 

 おお、神よ! 感謝します!”



「お父様、なんか嬉しそうね。やっぱり彼のこと気に入ったんでしょ? 

 お父様なら絶対に気に入ると思ってたわ!」


 と、薫子が嬉しそうに言った。



「そうだな。本当に薫子の言っていた通りだ。

 わしは、君のような何か明るい希望のようなものを感じる青年に会ったのは初めてだ。

 薫子の為に配達を頼んでいた新聞を通じて、二人は出会ったそうだね?」


 と、昇造も嬉しそうに言った。



「えっ? 新聞って、君が読んでたの?

 あっ、いや、その……そんなに誉めていただいて、なんと言ったらいいのか、わからないくらいです」


 と、義也が昇造に答えるより先に、驚いて薫子に聞いてしまった。



「もう! 本当に、あなたって失礼ね! そんなに私が新聞を読んでる事が以外だった? 半強制的に小学校高学年から、毎日、新聞を読まされてたから、これでも文系は得意なのよ! 理系は苦手だけど……」


 と、薫子が不機嫌になって言った。



「違う、違うよ。そういう意味じゃなくて、僕が配達した新聞を君が読んでくれていたなんて、嬉しくて驚いたんだ……」


 と、言ってから義也の頬が、少し赤くなった。



「そう、それならいいわ。許してあげる!」


 と、高飛車な言い方のわりに、薫子の頬も少し赤くなった。



 そんな二人を見ていて昇造は、少し意地悪したくなってきた。


「今日は、薫子から義也君にあまり質問しないように言われているんだが、少しだけ質問してもいいかな?」


 と、昇造が義也に聞いた。



「はい。」


 と、義也が緊張しながら答えた。



「その……義也君が、薫子のほっぺにキスしたっていうのは本当かい?」


 と、昇造がわざとまじめな顔をして聞いた。



「お父様、ひどいわ! 変な事は聞かないでって、お願いしたじゃないの!

 それに……ほっぺじゃなくて、おでこだから!」


 と、薫子が興奮気味に言った。



「弁解させて下さい!」

 

 と、義也は昇造の前に土下座して言った。



「うむ、聞かせてもらおうか?」


 と、昇造は二人の必死な姿に笑いをこらえながら、まじめに答えた。



「僕は小学校3年生から、中学校2年生まで、父親の仕事の関係でアメリカに住んでいました。

 父の仕事は牧師で、その地方のアメリカ人の方は教会に来ると、僕たち、あっ、僕は男3人兄弟の長男ですが、僕たち兄弟に肩に手を置いて頭やおでこにキスしてくれたんです。

 それで、その……そんな事日本でやったら、下手したら性犯罪者にでもされそうな風土なのはわかってたんですけど、身体が勝手に反応してしまいました。

 お嬢様の身体に触れてしまい、本当に申し訳ありません!」


 と、義也は地面に頭をつけて、謝った。



「すると義也君は、薫子へのキスは ”ただの挨拶だった” というのかね?」


 と、昇造が心配になって聞いた。

 それを聞いて薫子も、“あのキスは、ただの挨拶だったの?” と、悲しい気持ちになった。



「いえ、違います! ただの挨拶ではありません。

 その地方のアメリカ人の皆さんは、その挨拶をする時に必ず 

  “I Love You!” 

 と、言ってくれていたんです。

 だから、あのキスは……僕の薫子さんへの

  “I Love You!” 

 の気持ちの表れなんです!」


 と、義也が思い切った様子で言い放った。

 薫子はそれを聞いた途端、“ボッ!” と音が出そうな程、顔が真っ赤になった。



「そうか! それなら良かった。意地悪な質問をして悪かったよ。

 初々しい二人を見ていたら、意地悪したくなってしまってな。

 本当に悪かった。こちらこそ許して欲しい。

 義也君、どうか顔をあげて立って、こっちのベンチに座ってくれたまえ!」


 と、昇造が今度は謝った。



「ありがとうございます。こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした!」


 と、言って義也は昇造に促されて、ベンチに戻った。



「そういえばアメリカにいた郡山牧師といえば、義也君のお父さんは、もしかして郡山春夫牧師かい?」


 と、昇造は極秘調査した事が薫子にばれないように、細心の注意を払いながら聞いた。



「えっ? そうですけど。僕の父をご存知なんですか?」


 と、義也が驚いて聞き返した。



「ご存知も何も、彼は私の恩人だよ。昔アメリカとの商談で、私が無実の罪を着せられて八方塞がりになっていた時に、そこにたまたま居合わせた郡山牧師が、私に無実の罪を着せていた人をすばやく見つけて、穏やかに説得してくれたんだ。そのおかげで、私は助かって、こうして今も鈴木財閥会長として働く事ができてるっていうわけさ。

  

 その時のあざやかな真実を見抜く洞察力と、すばやく機転を利かす応用力。更に相手の心理状態を掌握して、一番平和的な解決に導いたその手腕に私は、ただ、ただ驚きと尊敬の気持ちを抱いたものだよ。

 

 彼は “神に感謝してください” と言って去っていってしまったので、それきり会う事もなかったんだが、ニュースで郡山春夫牧師がペルーの山奥で亡くなられたと聞いた時には……」


 と、昇造が涙ぐんで言葉に詰まった。



「僕の父にそんな事があったなんて、知りませんでした。

 なんというめぐり合わせでしょうか……

 それに、父の事をそんな風に思ってくださって、ありがとうございます。

 天国で父も喜んでいると思います……」


 と、義也も涙ぐんだ。



「お父様とあなたのお父様に、そんなつながりがあったなんて……

 なにかとても不思議ね……」


 と、薫子も感動して涙ぐんだ。

 しばらく3人は感傷に浸っていたが、薫子が口を開いた。



「そういえば、お父様があの魔法の言葉を聞きたいそうなんだけど、聞かせてもらってもいいかしら?」



「えっ? 聞きますか?」


 と、いつもと様子が違う義也。



「何よ? 聞きますかって! 何か言いたくない言葉なの?」


 と、薫子はいつもと違い歯切れの悪い義也に、不機嫌になりながら聞いた。



「いや……はい、わかりました。言います。

 でも前置きしておきますが、この魔法の言葉は、いつも祈って神様から預かった言葉なんです」


 と、義也が覚悟を決めたように言った。



「そうなのね。だから、いつもちょうどいい言葉ばかりなのね」


 と、納得する薫子。



「そうか……それは素晴らしいね。是非、聞かせてもらいたい!」


 と、期待がふくらんできた昇造。



 義也は、神様からの言葉が昇造を傷つけるのではないかと心配したが、神様からの言葉を勝手に変更するわけにもいかなかった。

 そして、覚悟を決めて、神様からの言葉を昇造に告げた。


「『金持ちが神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがもっとやさしい』」

※本文中の『』内は新改訳聖書のマルコ10章25節より引用しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ