神サマっ!
世界が平和になりますように・・・
「神サマっ!」
小さな天使が甘えた声で呼びかけた。
「ん、なんじゃ?」
一見老人の姿をした神様が、長く白いひげを撫でながら答えた。
「神サマは、どうして地上では、いろいろな名前で呼ばれているの?」
小さな天使は、大きな目をくりくりさせて尋ねた。
「それは、会った人間たちが、それぞれ違った名前で私のことを名づけたからじゃよ。そもそも私に固有の名前なんてないからね」
「でも、地上にはいろんな神サマがいることになっていますよ」
「そりゃ、私はどんな姿にもなれるから、その土地になるべくふさわしい姿で会いに行くからじゃよ。私の姿には意味がないと伝えてはおるのじゃが、人間と言うものは、何か形あるものに対してでないと、うまく祈ることができない者も多いようじゃ」
「そういえば、ある民族は、神サマの姿を描くことを禁止しているようですね」
「それぞれが、祈りやすいようにすれば良いのじゃよ」
ふぅ、と神様はため息を漏らした。
「あのね、ある小さな島国には『八百万の神』とか言って、いろんな物の中に沢山の神サマがいるって信じている変な民族もいるんですよ。例えばトイレにも、トイレの神サマがいるんですって!笑っちゃいますよね」
小さな天使はコロコロと本当に笑った。
「それもあながち間違いではないのじゃよ。私は世の中の全てのことを司っているから、世の中のいろいろな物や現象に私の姿を見出すこともあるじゃろう。だから、いろんな事象を別々の観点から見れば、違った私が大勢いるようにも見えるじゃろうからの」
「でも、どうして人間って、神サマのことを、こんなに違ったように考えちゃうんでしょうねぇ」
「私は、人間とは次元の違う世界にいるからじゃろう。例えば、紙のような平面の中に二次元の人間の世界があるとしようか」
「ああっ、人間たちが『アニメ』とか『マンガ』とか言っているものですね」
「いや、そうじゃなくて、紙のように平べったいものの中に世界があると考えるのじゃ。その平べったい世界の人間には、世界の外の立体的な世界、つまり三次元の世界を想像することはできないのじゃ」
「それはなぜですか?」
「例えば、ここにコップがあったとしよう。それを逆さまにして二次元の世界に突っ込むと、二次元の世界の人間には、丸い輪が現れたように見えるじゃろう。」
「コップを水平に切ったら、丸い形になりますものね」
「じゃが、そのコップを平面の中で横倒しにすれば、その平面の中ではコの字の形、つまり輪がコップの形に変化したように見えるじゃろう」
「コップを縦に切ったら、凹形になりますものね」
「平面の世界の人間には、なぜそのような形に変化したかを理解することは不可能じゃろう」
「それこそ、平面の中の人間にとっては、神サマの奇跡ですねっ!」
「私は、三次元の世界に住む人間よりもっともっと高次の存在じゃから、しょせん人間に本当の私を理解することはできんと思うよ」
そう言って、神様は寂しそうに遠い目をした。
「ねぇ、神サマっ。この世界は神サマが作ったのですよね」
突然、小さな天使は真剣な目をして言った。
「でも、その神サマが作った世界で、人間たちは日々争いをしています。ひょっとして、人間に争いが絶えないのは、神サマの教えが、宗教によって違うからじゃないかと思うことがあるのですよ」
「教えというのは、その時代、風土、習慣などによって、変わってくるものじゃよ。例えば、肉に十分火を通して焼かずに食べるような土地では、豚肉を食べてはいけないとか、田畑を耕すのに牛を使う土地では、牛を大事にするようにとか、ね。」
神様は憐み深い目で小さな天使を見つめ、その頭を撫でた。
そして、次第に世界は光に包まれ、神様の声で満たされた。
「じゃが、どの教えでも、必ず同じことも言っておるのじゃよ。人間は全て私が精魂込めて創造した大切な存在。その人間を決して殺してはいけないと・・・」
皆の祈りが一つになりますように・・・