イッピキメ…毒殺依頼、受け付けました
男は水晶を眺める。
部屋には男以外、誰もいない。
有るのはただ、静かな空間だけ。
薄暗い場所に、一つの店があった。
店の名は“Die Agentur für Mord”…殺しの代理店、だ。
中では…一人の男が肘を付いてカウンターに座っていた。
とても暇そうに、机に傷を付けている。
カラリ、と床の水晶が転がり…人が現れた。
「――オ客さん、ご用は何でしょウ」
男が、笑いながら軋む声を上げた。
客と呼ばれた女性は、優雅に微笑む。
「私の夫を殺してほしいの。」
女性は、優雅に笑いながら…そう言った。
「そウですか…どの様にして殺しましょウか?」
男は大して驚いた顔を見せず、女性に問いかけた。
「そうね…毒でも仕込んで、苦しみながら死んでほしいわね。」
女性はそれだけ言い、札束を取り出そうとした。
「イエ、オ代はイりません」
男はそれだけ言って止めると、何かの紙を見せた。
「何?…『ルールブック?』」
女性は、ページを開いた。
「…その一…依頼者は、他人に知られてはならない…?どういう事?」
女性が男に問いかけると、軋んだ様に笑いながら言った。
「オ客さんが他の誰かに知られてイた場合、面倒な事が起きるので。」
そして、続きを促す。
「その二…お金ではない、別のモノを。…ルールって、これだけ?」
女性は拍子抜けした様に言う。
男は笑った。
「その通り!…まァ、厳密にはもっとアるんですが…まァ…イイでしょウ。」
そのまま…男は、宣言して見せた。
「必ずや、一二時間以内に命を刈り取って見せましょウ」
そして、男は姿を消した。
男が取った行動は、実にシンプルなモノだった。
変装用の衣装に身を包み、毒入りのワインを手にする。
その後は…女性の夫がいる豪邸へ。
チャイムを鳴らすと、使用人数名が応答した。
「ワイン商人です。旦那様へ、ワインのオ届けです。」
記憶を確かにそう言うと、使用人ではなく…旦那様が出てきた。
ワインを受け取ると、しげしげと眺め…
「商人とやら…毒見をしろ」
とワイングラスを寄こし…毒ワインを注いでみせた。
旦那様がずっと見ている横で、男は堂々と飲んでみせた。
「どウです?旦那様も――」
笑いながら男は差し出し、旦那様にワインを勧めた。
旦那様は訝しみながらもそれを口にして…すぐに絶命した。
男は僅かに嗤うと、その場を後にした。
「それで…どうだったの?」
女性が聞いてくる。
それもその筈…男は、モノの三時間で帰って来たからだ。
「上手くイきましたよ、オ客さん。」
男は言って黙った後…再び口を開いた。
「では、頂きましょウか。」
「ええ…何を差し出すの?」
女性が興味津津で聞く。
「そウですね…貴方の場合は…憎しみですね」
男は手を差し出すと、女性から黒く濁った水晶を取り出した。
「…それでいいのね。さぁ、私は帰らなきゃ…」
取り出された女性はフラフラと出口に到達すると、そのまま掻き消えてしまった。
「オ客さん、アりがとウござイました」
男がそれだけ言い、部屋は、また静かになった。
男は微笑んで、濁った水晶を放る。
水晶は床に落ちると、簡単に砕け散ってしまった。
「さァ、またオ客さんを探さなくては。」
男は、ニヤリと笑っていた。