『単純に――』
『JAUSTIS』
簡潔に説明可能な、それは完結したモノ。
正義……尊むは『善』、滅するは『悪』。
公平に悪を塗り潰し、秩序を敷きつめよう。
それが彼女の願いであり、弱者の希望であるだろう。
―――
「――それで、以上が今回の任務だ。
レジスタンスは動きを表面化させないが、偵察を行ってくれ」
その一室は薄暗い。
会議でも開けそうな大きさの室内にポツンとあるテーブルに座った男性は、向かって座る黒髪の少女に言った。
「……遅い。
レジスタンスが存じているという事が分かっていながら、何て遅い」
落胆しているのは、堕落した国軍に対するものである。
溜め息こそ漏らしはしないが、指をくわえて見ていたかのその情報と看過する上層部の平和ボケに少々――、いや、平和ボケは今になって思うが良いことだ。
ボケる程に平和、そのままの意味だがそれを悪く言うのは理由が要る。
『レジスタンスの視察』
少女が苛立ったのはそれの存在を知っていながら手を打たないという事であり、何よりも……要約すると“見てきてくれ"という骨が折れるよりも足が疲れる様な内容を言い渡されたから。
向かい合って座る二人の間に紫煙が立ち込めた。
吸い出したのは赤い髪の男性ではなく、彼の正面のこの少女。
山盛りに詰み上がった潰れたタバコの吸い殻を貯めた灰皿はもはや許容容量を超え、卓上に吸い殻が幾つか転がっていた。
「……『ジャスティス』。
禁煙した俺だから言うが、あんまり女の子がそんなものを吸うんじゃない」
「話を逸らすな司令殿。
……血生臭い阿婆擦れよりも、タバコ臭い美少女の方が段違いで良いだろう?」
話を逸らすな、そういった割には男性の苦言に返答しているあたり、少女『ジャスティス』は冗談の言える人物だ。
だが、それはそれとて――。
「まぁ、良い。
……がだ、請けるのは良いが情報を聞かせろ。
レジスタンスを見るのは見てきてやる。
武装しているのなら、その準備が進んでいるのならば――」
言い途中だが、よく訪れる彼女の………『ジャスティス』用の空のコーヒーカップに男性はコーヒーでなくてミルクを注いでその先の言葉を予感してこう言った。
「“妙な動きをしたら直ぐ様"……か」
「無論。
―――いや、この資料の記載だが……何だこれは?
このエリアは国からの援助資金を贈られているのに、何故に“未だにスラムがある?"」
一応、誰かが伝えた情報はアテにはならないかもしれないが、『ジャスティス』は信憑性にかけるかもしれないその記載された文章を食い入るように見つめ、男性の答えを待った。
……2秒待っている最中、彼女は眉を歪ませ大きく舌を打った。
理解出来た、苛立った彼女はまだくわえているタバコに続けて2本目のタバコを吸い出した。
――それ程に今回の任務は嫌悪した。
「―――凄いな、臭いな。
今回のレジスタンスの連中は……援助金で何だ?」
「話が早いよ『ジャスティス』。 助かる。
国軍は手を打てない、簡単な話だ。
“自衛の為と言われれば援助金を兵器に使っても国は干渉出来ない"。
……あそこの区域。
元の貧民がここ数年に力を持ち過ぎてる」
「役人では劣等共を束ねるのが限界か?
だから、私は何度も言っているであろうよ司令殿。
総統するのならば上の者は多少なりとも権力を振り翳さねば……」
席を立ちながら『ジャスティス』は火種すら消す事の困難な満杯の灰皿の灰を溢れさせて、窓際に意味なく向かって空を見た。
空は青い。
血が染みきって黒く変色したコート、そのか弱そうな背中に羽織ったままで雰囲気は物憂げ。
見えないが、司令は彼女が溜めた吸い殻を机の下のバケツに纏めて捨てながら、からかう様に言ってみた。
「開けてくれないか? 流石に煙たい。
……それに俺はもうタバコは辞めたんだよ。
よくもまぁ、元喫煙者の目の前で10本も20本も吸えるな」
「―――開けんよ。
季節を考えろ、寒い。
……と言うか司令殿、禁煙は成功したのか?
――あぁ、司令殿は結婚したのだな確か。
タバコを辞めろと誰に言われた?
黒髪ナイチチの本妻か? 金髪巨乳の愛人か? ド淫乱銀髪のセフレか? 茶髪JKの性奴隷か?」
「全員にだ」
てっきり、セリフ後半を否定するかと思っていた彼女はその返しに少々口元が自然な形で綻んだ。
相も変わらず冗談を言えるあたり、複雑な経緯を経た彼も心にゆとりが出来たのだろう。
微笑ましい。
でだ、そろそろ本題を終わらせる必要がある。
場所が場所だ。
あまり悠長にしている間に良からぬ事をされても困る。
動きがないのならその間に偵察なり観察なりしてしまう方が良い。
踵を返し換気しない彼女は、“何故、そんな集まりがそのような下準備をしているか?"という事を知り得たのか……それは粗方予想がついた様で――。
「――でだ、その密告した子供は何処だ?」
一際鋭い目付きで言う彼女。
よくもまぁ、勘の働く人物だと司令は感心した。
何故に子供かと察した理由は――。
「乳臭い。
牛乳好きの私の次ぐらいに乳臭いのが、鼻に付く」
「“仕留めるなよ"。
寧ろ讃えてやれ、被害は出る前だからな」
開いたドアは遠く。
じっと、赤く派手な頭をした上層部の司令と小柄なくせに重圧感を垂れ流している『ジャスティス』を見ている年齢一桁程の少年はそこから動かない。
人見知りかと言えば、否。
寧ろ、言わば敵対側に自側の動向を漏らしたのだから行動力はある。
動かないのは――。
「……心配しないでも良い小僧。
私は“悪い能力者は殺すが良い能力者は殺さない"。
――ところで、司令殿よ?
今回のレジスタンス側の主戦力は何だ?
戦車か? 機動兵器か? 銃か? 剣か?」
圧倒的な余裕を、彼女の“勝って当然"という余裕がヒシヒシと少年の心をギシギシと軋ませた。
そんな少年の心境など知っていながら知らんふりの司令は、飴玉を二人に投げて寄越した。
グレープフルーツ味が嫌なのか、受け取った『ジャスティス』は少年のイチゴ味のそれを恨めしそうに見つめながら、相手の主戦力を聞かされた。
「能力者……20人」
「推測的に最強は?」
「『時間操作』。 ……どうだ? 手強いと思うか?」
薄ら笑いを思わず浮かべた彼の元に歩み寄り、『ジャスティス』は忘れたタバコの箱と――。
「……あぁ、そんな異能力で昂って調子にノれてしまうのならばなんとも怖い」
机の上の飴玉の袋に入ってるであろう、イチゴ味をまさぐりながら余裕綽々で言ってみせた。
――――
使い方分かんねぇ!!!




