Ⅷ 春哉と話せない
私、春哉になにか嫌な思いさせちゃったのかな。
辛いよ、春哉。春哉と話せないなんて…。
その時、背中を中心に強い衝撃があった。
殴られた時よりも強い痛み。
それと同時に
「未夢!。大丈夫?。」
「中村さん!。」
という声が聞こえた。
目が覚めると、ベットの上で寝ていた。周りはカーテンで仕切られていた。
『ここはどこ?。』
私は起き上がって、必死に何があったか思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。
「未夢ちゃん。」
朝川先生がカーテンを開けて、声を上げた。
「もう大丈夫?。」
とりあえず、頷く。
「最近変よ?。春哉くんと何かあったの?。」
先生は、私が座っているベットに腰をかけると、私のことをじっと見て言った。
「いえ…。何も…。」
何も…、ある。
言えるわけないよ。
先生なんかに言ったら、きっと…。
春哉ともっとしゃべれなくなる。
だって…、いけないことしちゃったんだもん。
あれ?。あれって、いけないことだったの?。
いけないの?。
悪いこと?。
分かんないよ…。
「なんかなやんでるならとりあえず、先生に言いな。絶対秘密にしておく。約束する。どんなことでも秘密にする。」
朝川先生が私の目をしっかり見て私の手をしっかり握った。
冷たい私の手が少しずつ温かくなった。
「先生、あの…。」
「ん?。」
「結婚してるんですか?」
私は何をいってるんだ、と早くも後悔していた。
でも先生は、
「ううん。結婚はまだよ。」
と笑って答えた。
「彼氏はいるでしょ、しかも、水浦先生。」
先生は「どうして分かったの?。」と顔をした。
お見通しだ。
私は朝川先生が水浦先生をいつも見ていることくらい知っている。
「…そうよ。」
「ケンカ、したりしないの?。」
「たまにはするわよ。」
「嘘だ、水浦先生は朝川先生にデレデレじゃないか!。ケンカなんてホントはしないでしょ。」
私たちは話が脱線して笑いあってると、
「未夢!。」
カーテンの向こうで、どあが思いっきり開く音がして、懐かしい春哉の声がした。
そして、カーテンが全開に開かれた。
「良かった…。」
春哉は私の顔を見ると、そういって戻ろうとした。
「未夢ちゃん、さっきのことは二人だけの秘密よ。」
朝川先生がこそっと私に耳打ちすると、
「春哉くん、私、用事があるから春哉くんが未夢ちゃんについててあげてよ。授業の先生には言っておくからさ。」
と、明るい声で出口を通せんぼしながら言った。
読んでいただいてありがとうございます。
次回もお楽しみに。