第七話
「ただいま」
玄関で母親へと声をかける。
「あれ?」
母親から返事が返ってこない。
いつもなら、おかえりと返事が来るものだが。
そのままリビングへと直行する。
やはり、母親の姿がない。
「買い物か?」
いや、まだ昼過ぎだ、こんな時間から買い物には行かない。
・・・一度着替えよう。
自室にはいると、部屋が綺麗に掃除されていた。
いつもは汚い机が整理され、紙が一枚置いてあった。
「何だ?」
手に取り、それを読む。
"親愛なる息子、遙樹へ
((「│※・ω・│」)!
心優しい美人な母より"
斬新すぎる。
「と言うか、何も伝えれてねぇよ!」
母の茶目っ気には、笑いを通り越して殺意すら覚える。
仕方なく携帯を取りだし、母親に電話をかけた。
ぷるるるぷるるるぷるるる
『ヘロー!』
「ヘローじゃねぇよ、何処に行っているんだ?」
『ハワイ』
「はぁ?」
ハワイとはあの南国の島のことか?
『あんたもお父さんが旅行会社に勤めているのは知っているでしょ?』
「知ってる」
親父は大手旅行代理店に勤めている。
確か係長で、外国語大学を卒業しているおかげか語学も堪能だったな。
『お父さんね、ハワイに転勤になったのよ。だから、私は一緒についていったわけ。しばらくは帰れないし、遙樹は学校があるからそっちで暮らす方が良いかなって、思ったから今朝伝えようとしたのだけど』
「俺が聞かずに出ていった訳か・・・。それは良いけど、俺の生活はどうするんだ?」
『洗濯や掃除ぐらい自分で出来るでしょう?お金なら大丈夫よ、仕送りしてあげるから。でもあまり使いすぎないようにね。1ヶ月一万円だから』
いきなり黄金伝説!?
「無理に決まってんだろ!」
『冗談よ。きちんとした額を送るから、毎月の請求金額をメールで送りなさい』
「わかったよ」
『じゃあ決まりね!あと、電話はあまりしないように、通話料が高くなるから。シーユーネクスタイム!バーイ!』
ぶつ
ぷーぷーぷー
ものすごく日本訛りだが、大丈夫なのだろうか。
一応、親父にも連絡しておくか。
カチカチカチ
ピッ
ぷるるるぷるるる
『Hello!Who are you?』
さすがに流暢な英語だ。
「俺だよ、親父」
『Oh!Haruki!
Are you fine?』
「元気だよ。てか英語を外してくれ」
『おお、すまんすまん。で、どうした?』
「ハワイに転勤だって?」
『そうなんだよ。まぁでも会社側が住む家まで用意してくれたし、課長にも昇進したから文句は無いんだけどね』
「おめでとう」
『ありがとう。ところでそっちは大丈夫か?一人暮らしになるだろうに』
「大丈夫だよ、念願の一人暮らしを満喫するから。じゃあ仕事頑張って」
『Thank You!
See you next time! Bye!』
ぷつ
携帯を置き、椅子に座る。
さて、どうしたものか。
母のおかげで騒がしい家も、こうなると何だか暗く感じるから不思議だ。
少し憂鬱な気分になっていると、リビングの時計が正午を告げる鐘が鳴った。
同時に俺の腹も鳴った。
飯でも食うか・・・。
椅子から立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。
「ソーセージぐらいはあるかな・・・」
扉を開けた。
ウィダーインゼリー ×100
ゆっくりと扉を閉める。
「ハハハ・・・、これなら朝寝坊しても大丈夫だな・・・」
折れそうになる心を必死で支える。
続けて野菜室を開けると―――
カロリーメイト ×300
(フルーツ、ココア、プレーン)
黄色に染まっていた。
バカな!?
なぜ簡易食ばかりなんだ!?
母の考えに戦慄しながらもため息をつき、財布を取りに部屋へ戻る。
さすがに十秒メシはきつい。
財布をポケットにねじ込み、玄関の扉を開けた。