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すうぃーと or デッド  作者: 霜月夢人
空の使者と闇の化身
4/11

第二話

当然間に合わなかった。


俺の通学路は学校まで歩いて15分という一等地に在るのだが、8時10分登校なので、すでに遅刻である。


佐上工業高等学校。


木製の巨大な正門が、やけに荘厳な雰囲気を醸し出している。


戦時中に設立されたこの高校は、当時は"御国のため"と優秀な技術者を輩出していた。


戦争が終わり、今では立派な一工業高校として優秀な人材を輩出している。


そして、今に至る。


正門は固く閉ざされ、代わりに横の小さな扉の鍵が開けてあった。


そこをくぐると、目の前には初老の男性が立っていた。


生活指導兼体育科長、鬼島賢治(きじまけんじ)


ラグビー部の顧問だ。


あと三年で還暦の先生だが、肉体は未だに筋肉の鎧に覆われている。目付きも鋭く、好々爺にはとても見えない。


この先生がいるおかげで、体育教官室は別名、"鬼ヶ島"と呼ばれている。


「おい、止まれ」


鬼島先生の野太い声がかかる。


「科、学年、クラス、番号、氏名を答えろ」


がっしりと肩を掴まれた。


「はい・・・、土木工学科二年A組5番御園遥希です」


「声が小さい!」


目の前で叫ぶ鬼島。


止めてくれ!


そんなことを言える訳もなく、ただ命令に従う。


「土木工学科!二年A組5番!御園遥希です!」


「よし!以後、気をつけるように!」


「すいませんでした!」


背中をバシッと叩かれ、直ぐにそこから離れる。


他のクラスの連中が窓から笑いながら俺を見ていた。


教室は確か、三階だったな。


階段を駆け上がり教室に辿り着くと、扉を開け中に入る。


見慣れた光景、机が規律正しく並び、教卓には先生が立っていた。


全員の視線が俺に集中する。


えっと・・・。


「遅れたんなら、ええから早く座れ。席はあそこや」


指を指している席は、窓から二列目の席で、最も黒板が良く見える所に在った。


一番前かよ。


「遅刻者も来たし、まず自己紹介するわ。ワシの名前は山田智裕(やまだともひろ)

去年から持ち上がりやから知ってると思うわ。ほな、一年間よろしく」


関西弁のこの人は山田先生だ。


去年もこの先生だったな。


大阪の出身で頭は禿げているが、自慢の口髭は留まることを知らずに伸びている。体格はがっしりとして、高身長だ。


英語の先生で、趣味は海外旅行。


十数ヶ国語を話し、特にロシアが大好き。


生徒からは"浪速のゴルバチョフ"と呼ばれている。


「えー、今から始業式や。放送入ったら順に並んで行きなはれ、分かったな」


それだけを言うと、教室から出て行ってしまった。


「始業式から遅刻とは、順調な滑り出しだな?」


後ろの席から男が話しかけてきた。


さっぱりとしたショートカットでフレームの赤いメガネ、河鍋俊樹だ。


「うるせぇ」


「怒るなって、今年もよろしくな」


メガネを指で直しながら、あいさつをする。


「まぁ、今年は疎遠で」


「えっ!?何で!?」


「心当たりはあるだろ!!」


こいつは中々成績も優秀で、卓球部のエースなのだが、少し困ったことがある。


少し、というか動物であるなら、根本的な面から間違っている。


「だって、お前ホ――」


「アウトー!その先アウトッ!」


必死で俺の言葉を遮る。


そして小声で、


「俺はホモじゃない!立花が好きなだけだ!」


「世間じゃそれをホモって言うんだよ!」


ちなみに立花とは、卓球部の部員で、河鍋の男だ。


・・・何かおかしい気もするが、文字通りだ。


「好きなものは仕方ないだろ?それより体育館に行こうぜ、放送が入ってるみたいだ」


話に集中していて分からなかったが、多くの生徒が教室から出て行っている。


「そうだな、俺らも行くか」


席から立ち上がり、体育館へ歩き出した。






校長の話っていうものは、何処でも長い。


欠伸をかみ殺しながら、前を見ることに勤める。


まったく・・・、もう二十分も話しているじゃないか。


司会の教頭先生も、チラチラと時計を確認していた。


「―――ということで、新しく入った一年生諸君は、早く学校に慣れてください」


やっと終わったか。


「次に体育課長の鬼島先生から、大掃除についての諸注意があります」


なんという、フェイント。


周りからもため息が漏れる。


分かるよ、だるいよ俺も。


この学校はつまらない。


校長の話が長いのも大きな理由の一つだが、最大の理由は女子が少なすぎるということだ。


見渡せど、学ラン。


工業高校だから仕方ないけどね。


女子もすずめの涙ほどはいるものの、俺達二年の土木工学科には一人も女子がいない。


確か二学年の比率は男子

40:女子1というほどだ。


「各自担当の先生の指示に従い、きちんと掃除をするように。解散」


その一言で、集まっていた生徒が、蜘蛛の子を散らすように体育館を出て行く。


俺も足早に体育館を出ようとすると、後ろから河鍋が声をかけてきた。


「遥希!ビッグニュースだ!」


「あぁ、立花と別れたのか?」


「違う!俺らのクラスに転入生が来るらしいぜ!」


「はぁ?」


何だそりゃ?


「確かな話だよ、ゴルバチョフが早く戻った理由がそれなんだよ!」


「確かに・・・職員室に戻るのが早かったな、始業式にもいなかったし。」


今から思うと確かに不自然だ。

だが、


「工業高校に転入ってありえるのか?」


「さぁ?」


聞いたことが無い、工業高校に転入するなど。


「それに、万が一あったとしても、男だろ?」


「多分な。イケメンだといいな!」


「死ね」


「冷たっ!その態度、冷たっ!!ジョークじゃん!」


そういう風には聞こえないんだよ!


河鍋を無視し、教室に入った。



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