第九話
ずどん
室内に轟音が響く。
同時に身体の自由が戻ってきた。
「うわぁぁっ!!」
急いでベッドから離れる。
急いで武本を確認すると、彼女は体を起こし、扉を見ていた。
そこには天野さんが立っていた。
片手に、黒光りする拳銃を持って。
武本が不機嫌そうに顔を歪める。
「他人の恋路を邪魔しないでくれる?」
対して、天野さんは終始、笑顔を崩さず対応していた。
「ええ、でも不純異性交遊は禁止されているはずですよ?」
天野さんは顔の筋肉だけで笑っているのが恐ろしい。
「貴女ごときが私の権限を邪魔できると思っているわけ?」
「ええ、勅命を受けてきていますから。もしかして、通達を聞いてないのですか?」
「通達?何なの?」
「なら、申し上げます。彼は天界の重要人物です。彼を引き渡していただき、即時の引き上げをお願いします。
あなたへの恩赦はこちらで用意させて頂きます」
一気に言葉を畳み掛ける。
黙って聞いていた武本が口を開く。
「嫌って言ったら?」
空気が凍りついた。
少しの間を置き、天野さんが独白する。
「・・・頭の風通しが良くなるかもしれませんね」
極上の微笑を浮かべながら、恐ろしい事を言う。
しかも、引き金を半分引いてしまっていた。
「じゃあ、ヤダ」
どごん
武本は顔を傾けて避けた。
先程まで眉間があった場所に正確に撃ち込んでいる。
「清楚な顔してエグいわね」
呟きを無視し、言葉を続ける。
「もう一度聞きます。ご了承いただけましたか?」
ニッコリと笑う天野さん、恐らくこれが最終宣告なのだろう。
「嫌よ」
またしても拳銃が火を吹いた。
しかし、今度は何処にも着弾しなかった。
甲高い金属音が響き、鉄屑が地面に落ちた。
武本が何処からか鎌を出現させ、神速の居合いで銃弾を横なぎにしたのだ。
「ハ・ズ・レ」
茶化すように言う。
ピキッッ
額に青筋が入り、天野さんの顔がひきつった。
「分かってませんね?外しているんですよ?」
「眉間を狙っといて言う台詞じゃないわよ!」
お互いの武器を構えにらみ合う。
「ここじゃあ、鎌は不利よね」
そう言うと、武本は指を弾いた。
するとあたりの風景がぐにゃぐにゃとゆがみ始めた。
「なっ!?何だ!?」
マーブルになっていく景色が、ゆっくりと暗闇に吸い込まれていく。
そして辺りは真っ暗になり、奇妙な浮遊感に包まれた。
唐突に光が弾けた。
「―――っ痛ッ!」
空中に投げ出され、尻餅をつく。
痛みをこらえながら、ふらふらと立ち上がった。
「どこだ?ここは」
目の前には真っ青な空が広がっていた。
しかし、地面はコンクリートである。
かなりの広さの場所で、しかも高い位置にあるようだった。
「ビルの屋上・・・か?」
そう考えると、納得がいく。
いや、どうやって俺はここに来たんだ!?
「そうだ!二人は!?」
振り返ると、彼女達がちょうど落ちてきた。
ストッ
見事に着地する。
すぐに臨戦態勢をとった。
「テレポートですか」
天野さんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そ、ちなみに場所は内緒」
鎌を低く構え、腰を少し落とす。
「さぁ本番よ、楽しみましょ?」
返事はまたしても銃弾だった。
しかし、これも武本は軽々と避けてしまう。
舞い散る木の葉のように、最小限の動きでかわす。
立て続けに五発の銃弾が放たれたが、すべて遥か彼方へと消えてしまう。
「はぁ・・・」
天野さんは残念そうにため息を吐くを、マガジン(弾倉)を抜いた。
胸の谷間に手を入れると、新しいマガジンが現れた。
「・・・どうなってんのよ、それ」
「企業秘密です」
マガジンを補充する。
「コレではらちが空きませんね」
もう一度、今度は銃を持っていない左手を谷間に手を入れた。
すると今度は右手と同じ拳銃が現れる。
「・・・ホントどうなってんのよ、それ。流石に入らないでしょ」
「企業秘密です」
頑なに企業秘密を通す天野さん。
「今度は避けれませんよ」
鋼鉄の双銃が轟音を打ち鳴らす。
発砲音が並んで聞こえた。
またしても武本はそれを避けた。
ように俺には見えた。
しかし、体を捌き終わった武本の顔には数本の赤い筋が入っていた。
薄く血がにじむ。
「乙女の柔肌に傷をつけた恨みは恐ろしいわよ」
「ええ、重々承知しています」
武本は鎌を回転させると、石突で地面を二度突いた。
すると彼女を中心に黒い影が広がり、体を覆う。
まるで繭のように。
そして黒い光となって弾けた。