プロローグ 闇
カタカタ・・カタカタ
カチカチッ
閑散とした薄暗い室内に、不規則なキーボートとマウスを叩く音が響く。
多くのデスクに一つずつパソコンが設置されている。
そして数人の女性が、それぞれの席についていた。
一見普通のように見えるのだが、異様な点がある。
まず、女性しかいない。
それならまだしも全員の服装が黒に統一されている。
まるで喪中のようだ。
だがそんな様子は無く、彼女達は働いていた。
そして、デスクの九割が不在である。
明らかに何者かが使用した形跡があるのだが、しばらく触れていないのか大量に埃をかぶっている。
「はぁ・・・」
その中に一人ため息を吐く少女がいた。
漆黒のショートヘアで紫黒の瞳は吸い込まれそうなほど深く、勝気な印象を与える。
かなりの美貌を放つ彼女だが、今は美しい眉を寄せていた。
「なにしてんの~?」
隣から同僚が話しかけてきた。
「今度ボーナスなんだけど、どれにしようかと」
パソコンのスクロールを動かし画面を見る。
学生、サラリーマン、主婦、果てまた赤ん坊。
様々な人間の写真がある中、一人の男で手が止まる。
「へぇ~、こいつ中々良いじゃん」
移っているのはごく普通の少年。
容姿も身長も体型も平均値を外していない。
だが・・・
「霊能力が少し多いだけの一般人ね。でも私達には十分なご馳走だわ」
写真をクリックし、画面が飛ぶのを待つ。
「出た」
"今回の査定では220年が表示されました。この査定を承諾しますか?"
そしてその下にいつもの"はい"と"いいえ"の選択ボタン。
「220年て。私達って本当に薄給」
文句を言いながら"はい"をクリックする。
"申請を受理いたしました。健闘を祈ります。"
「ふ~ん、じゃあ頑張ってね」
「はいはい」
おもむろに立ち上がりデスクから離れる。
そして部屋の中央にある木製の大きな扉の前に立った。
「ちょっと!これ忘れてるわよ!」
後ろから同僚の声がかかる。
振り返ると、彼女の手には身長ほどもある大きな杖が握られていた。
そしてその先には巨大な刃。
「あぁ、それ私のよね。投げちゃって!」
「はいっ・・・、よっと!」
全身をしならせ投げてきた。
ドスッ
大きな刃が扉に刺さる。
「ありがと」
それを抜き、扉を開けた。
その先は真っ暗で何も見えない。
「いってらっさ~い」
「いってきます」
そして何の迷いも無く、暗闇に飛び込む。
すぐにその姿は闇に呑まれた。
残された同僚が一人また席に付く。
パソコンに一通のメールが届いていた。
「なになに?」
メールを開く。
"御園遥希への接近を禁ずる。担当の者は今すぐ項目を削除し、以後関わることを一切認めない。
彼は――――――"
そこには到底ありえないことが書かれていた。
「あちゃ~!こりゃ駄目だね。大丈夫かなぁ?まぁ、どうしようもないんだけどね」
まったく声音にそんな様子が見えない。
そして、あの彼女のことを思った。
彼女は止めに入った私になんと言うだろうか。
勝気な瞳が目に浮かぶ。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれた。
「知ーらない!」
考えを放棄し、自分の仕事に戻った。