謎の動力(後編)
予想以上に研究の余地があった魔石だが、テトの説明で気になった「無属性魔石」のことを調べていきたいと思う。
テト曰く、無属性魔石の中には魔導力があるものの、この魔導力を使いこなす術が二千年前には存在していなかったらしい。しかも、ヴァイスに神の座を奪われてからの二千年間で、これらが発展しているとも思えないとの事だった。
無属性魔石が手元にはないし、魔物狩りに出かけようかなと思った矢先に、今度はオリンジが魔石を持ってやってきた。
「アイノ様。その無属性魔石ってこれではないでしょうか?」
「なんであるのよ」
「昨日、手が空きましたのでプラムと森に入ってちょっとした散策をしておりました。そしたら数頭の魔物が襲ってきまして、適当にぶっ叩いて燃やしたら、この魔石が残っておりました」
もう有能すぎて怖い。よくよく聞いてみると、どうやら昨日俺たちが水場を探している時に、森を散策してたら結構大きい魔物達と遭遇したらしい。襲い掛かってきたので叩いて討伐した……みたいだ。そしたら無属性魔石が入ってたんだって……うちの子は天才なのである。
持ってきた魔石もそこそこ大きく、フットサルのボールくらいの大きさであった。
「さすがオリンジ、プラム。ありがとう、使わしてもらうな」
そういってオリンジから無属性魔石を受け取り実験開始だ。
今度も、火属性魔石と同じ様にコツンと叩いて割ってみたが、こちらも中身が抜けたり暴発したりはしないみたいだ。
ただ、魔法陣に乗せても詠唱しても特に変化がない。グラスプで解析した感じだと、確かに魔導力は含有しているのが、炎や氷などの「事象」が発生しないのである。
「なんだこりゃ。本当に『無』なんだけど……」
俺は「う~ん」と小さく唸りながら顎に手を当てた。
「……」
しばらく考えていると、マルメロが声を掛けてきた。
「アイノ様、大変差しでがましいかと存じますが、先ほどの『回路』になんらかの属性を刻印し、そこを介せば属性魔石のようになるのではないでしょうか?」
天才か!天才がいる!
「なるほど、確かにそれだと『家電』と同じ理屈だよな。ありがとうマルメロ」
「光栄の極み」
そう言ってマルメロは軽く会釈をした。
流石マルメロ。天才としか言いようがない。
早速、紙に刻印した魔法陣に「火属性の回路」を追加して、無属性魔石を魔法陣の上に置いた。そして、オンボタン的な場所に触れみた……
―――― ぽっ
すると、火属性魔石と同じように魔石から小さな炎が出た。完全に文明発展の声がした。
「おぉ。成功だね」
「アイノ、恐らくこれはとんでもない事であるぞ」
テトが「はぁ」という感じで俺に声を掛けてくる。
「俺だけじゃなくて、ゴレム達みんなで成し遂げた偉業だ!」
「「「「「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」」」」」」
俺の掛け声と共に、テトに向かって俺とゴレム達で一応ポーズをとってみた。
「……で、あるな……」
やれやれといった感じでテトが呟いた。
◇ ◇ ◇
さて、ここまできたら、もう少し魔石の活用について詰めていきたい。
属性魔石、無属性魔石の両方で魔導力を使う事ができたのだが、もし村とか街とかで活用するには少々不便さが残る。というのは、利用するにも魔石そのものを一々設置しないといけないからだ。ざっくりとした解釈だと、初代携帯電話みたいなイメージが近い。外出先でも電話できますけど、本体は肩に掛けて持ち歩く必要があります。みたいな話なんだよね。
っというわけで、俺が考えた魔石の活用法は「魔導力を取り出し、貯めて、送る」という仕組みだ。ドヤ顔をしてみたのだが、やっている事は地球の電気とほぼ同じ。
魔石の中から魔導力を抜き出す。この際、属性は無視して一つの場所に集める事になるので、仮に取り出せたとしても、複数の属性を混ぜたらどうなるのは見当がつかない。
まずは魔石が必要になるので、メイドゴレム達に追加で魔石を採ってきてもらい、火・無・氷・水・雷属性の魔石が集まった。それを見たテトが卒倒しそうになっていたけど、それはスルー。
あれこれ試していたのだが、魔石に込められた魔導力を抜き出す方法は、粉々に砕く事で抜き出せると判明した。ただ、抜き出して放置しておくと、魔導力はただの魔力と呼ばれるものに戻ってしまうようなので、一旦万物創生で創った結界箱の中に入れておいた。
最大の問題点だと思っていた「複数の属性を混ぜたらどうなるのか問題」であるが、不思議な事に複数の属性魔導力を混ぜると、どうやら無属性の魔導力になるらしい。ここまできたら勝ち試合だよ。
これを大規模にしていき、疑似魔石みたいなものをたくさん造ってそこに魔導力を封入し、サーバーセンターのような施設を建設して保管・管理すれば、エネルギーセンターの誕生である。魔導力の供給も、今後整備する予定の上下水管に魔法陣を刻印すれば可能だ。
「これで魔導力はクリアだ」
「お疲れ様です」
うーんと身体を伸ばした俺に、マルメロがお茶を出してくれた。
「その魔導力の保管場所は、万が一のため強固にしておく必要があるな」
お茶を飲みながらテトがそう言ってきた。
「確かにね。仮にこの魔導力が暴走した場合でも動じない施設が必要になってくるよね」
俺がいる拠点は既に聖域と成っている為、侵入者がどうこうできるものではないらしいけれど、もしこの施設を拠点外に伝来させた場合、悪巧みをする輩がいるかもしれない。そういった安全対策はやっておくに越したことはないからね。
「ここは建材が見つかり次第だな。適した建材が見つかったら魔導力センターの建設だね」
これで現代文明にぐっと近付く研究結果を得た。むしろ超えたかも知れない。
よし、あとは生活排水についてだね。
◇ ◇ ◇
魔導力については目処が立った。後はライフライン最大の問題である「上下水」の整備についてなんだよね。
現状、ウラノスが融通してくれた家の水回りに関しては、完全に神力で解決している。蛇口を捻ると何故か水が出てくるし、風呂もお湯が出てくる。トイレも水洗だし、トイレットペーパーも無くなる事がない。その排水っていったいどこに流れているのか……っと疑問に思ったのでグラスプで解析してみた。
結論「神力でなんとかしている」だった。そりゃそうだよね。配管もなんもなく、ただ設置しただけで使えてるんだから。
「テト、ちなみトイレ事情ってわかる?」
「トレイの中に水を張り、汚物を分解する種類のスライムを入れ処理していたと思うぞ。そのスライムは特段強いわけでもなく、簡単に捕獲でると地上の子等は言っておったな」
あっぶねー。よかったー。もしボットンとか、そこら辺に汚物をまき散らす昔のパリスタイルだったらめちゃくちゃ嫌だったわー。異世界にきて一番安心したかも知れないよ、マジで。しかも、このスライムは同種内で自然淘汰を行い、自分達の数を勝手に調整してくれるという超便利スライムらしい。
それでも、やはり衛生的に不安が残るやり方だよね。それなら、下水を整備して処理施設を建設し、下水管や処理施設にスライムを配置するのが圧倒的に良い。水洗トイレは偉大なのだ。
これも魔導力センターと同じで、かなりしっかりとした建材が必要だね。神力でなんとかできるけど、文明発展の為にはこの世界にあるものを活用してクリアしなければならない。
「う~ん……ここもやっぱり建材が見つかり次第だよなぁ……」
「まぁ当面は、ウラノス様から頂いたあの家を、有難く使わせていただけば良いのではないか?」
そうテトに宥められながら、俺は上下水の構想をぼんやりと作り上げていった。
今回、ライフラインについて色々とやってきたけど、今後最も必要になってくるのが「建材」かな。魔石についてはゴレム達がバンバン魔物を狩ってくるから、今のところ困る事はないし、我々以外でも魔物を討伐することが可能ってのもわかった。ただ、この魔境にいる魔物はテトすら知らないとんでも魔物ってのはあるんだけど……。
実は異世界叡智で探したところ、コンクリートを造れる事がわかったのだが、コンクリートの寿命は四十年そこそこだという事だったのでやめた。あと、あんなデカい魔物が突っ込んできたら耐えられないと思う。
正直、この先の事を考えると、いちいち修復なんてやりたくない。そういう面倒事が予想されるモノに関しては、最初に手を抜くと後々必ず痛い目をみる。それが世の常なのだよ。
なので、上下水の整備はこれから建材が見つかればやればいいかな。焦らずしっかりとした建材と計画で進めて行こうと思う。
「アイノ様ぁ~。向こうに田んぼと畑完成したでよぁ~」
「アイの旦那!水路もいい感じに出来ましたぜ!ちっと確認してみてくだせぇ!」
これからの展望を考えていると、ファム吉と鳶郎が小走りでやってきた。
「え、もうできたの?早くない?」
ものの二時間ちょっとだよ。なんか感覚が狂ってきたけど、もはや慣れてきたよ俺は。
「これくらい余裕でさぁ!なぁ、ファム吉の!」
「んだべ。楽しくて気付いたら終わっちまってただよ」
「わかった、じゃぁ見に行こうか」
どんな風になっているか楽しみだ。俺は家から田んぼに向かって歩き出した。
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