有識者ゼロの大魔境:前編
俺、神前愛命が転生することになった所謂「異世界」にあたるジェムボーデンという世界について、元神であるテティオスから事前説明があった。
ジェムボーデンは四つの大陸と無数の島々で構成されており、俺が転生する場所はとりあえず世界の中心にある場所らしい。多少森の中ではあるが異世界生活を始めるにはちょうどいい場所とのこと。俺が山奥育ちでスローライフが染み付いていることも考慮してくれた形だ。
ちなみに浮遊大陸や地底都市、さらには海底都市などもあるらしく、非常に期待が高まる。
惑星の大きさは地球の月よりもやや大きいらしいので、だいたい直径三千五百キロくらいか。基本的な環境は地球と似通っているとのこと。一日の長さも地球と同じと言っていたので、こちらは混乱しなくて済みそうだし地味に助かる。
あと、テティオスからの説明を聞く限りでは、各大陸は海や山岳で区切られており大陸間交流はほとんどないらしい。海に関しては近海程度であれば問題ないが、沖合に出ると大型の海棲魔物に船を沈められてしまうため、海路での大陸間交流はほぼ不可能とのこと。山岳からの交流に関しても、上位の魔物や寒暖等の過酷な環境によって阻まれてしまい、人類がこの山岳を踏破することは困難であり、こちらも海路と同じくほぼ不可能ではないかという話だ。
地上に住まう種族については、思ってた以上に様々な種族が存在しているみたい。異世界の定番であるエルフ、ドワーフをはじめ、獣人や人魚などもいるとのこと。数的にはやや人族が多いらしい。また、転生する場所は周囲に何もないため、これらの種族と出会うのは幾分か先になるだろうと言っていた。
文明レベルは、テティオスの失墜もあってかなり停滞していると嘆いていたので、中世くらいを想定しておけば大丈夫そうだ。まぁ、よくある異世界の世界観でいけそうだな。
◇ ◇ ◇
それから、俺はテティオスにジェムボーデンについて色々と質問したりして、予備知識をしっかりと頭に入れた。こうやって事前に情報を得られるのは非常に助かる。もはやこの時点でチートだよね。いきなり未知の土地に放り込まれても厄介なだけだもの。
説明が一段落ついた頃、微発光した浮遊老人、もとい、ウラノスから相談があった。
「そうじゃアイノ。今回の異世界転生なんじゃがの、お主さえよければテティオスも一緒に連れて行ってはくれんかのう?」
「テティオスを?」
異世界の男神に謀反キメられて神の力を失っていると言っていたから、異世界に付いてきても果たして役に立つんだろうかと、俺は当然のように訝しんだ。
すると、「うんうん、まぁそうだろうな」という顔をしたウラノスが耳打ちをするような仕草で話を続ける。
「神だった時のような力を戻すのはまだ無理じゃがな、ある程度はこの宇宙の創造神であるウラノス翁の力によって、『ある程度はッ!』融通ができるからのぉ……」
ウラノスはニヤリとしながらそう口にした。
明らかに怪しい。このジジイ絶対に何か企んでやがる。
……もう何を言っても無駄っぽいから流しておこう。
「忘れておったが、テティオスを追いやった『男神』の話をしておかねばな」
「確かに、その男神のことは気になる。そんなにヤバい奴だったの?」
地上に降りて邪神になったとか言っていたので、転生ライフ開始早々にヤバい奴とマッチアップするとかは避けたいとろこである。能力値的には問題ないって言ってたけど。
「その男神の名前は『ヴァイス』という」
神妙な面持ちでテティオスがそのヴァイスという男神について説明してくれた。
元々はテティオスの部下だった奴らしいのだが、とにかく下卑た無能者であるとのこと。その内容を聞いて辟易するほどだった。
ウラノスとテティオスが言うには、ヴァイスは何かにおいて全く学ぶ気がなく、同じ過ちを延々と繰り返し、言い訳が多く、責任転嫁はいつものことで、その割に自己評価は高く他人の意見を全く聞かない等々、言い出したらキリがないらしい。地球なら間違いなくモンスター社員認定されるであろうヤバい奴。これだけでも充分ヤバいけど、嫉妬心も強くて下卑た野心をも持っているという、ヤバいやつの特徴をコンプリートしたような圧倒的駄神。もうヤバ神である。そりゃ他の神も手を焼くよなぁと思う。
こういったことが原因で、更生と勉強いった意味合いも兼ねテティオスの部下に配属されていたらしい。テティオスお人好しが過ぎるな。
そういった経緯からテティオスの部下に配属されていたヴァイスだが、ある時、テティオスや他の神達の目を盗んで地上の民、いわゆる神職とされる者と接触をしていたとのこと。そして、金と名誉を卑しく欲する腐敗した地上の神職に能力(加護)を与えて唆し、テティオスに向けられていた信仰心を己に向けさせるよう指示したのだ。
そもそも、その世界の神以外が地上の者に神託を下すことが既に絶対的タブーらしいけど、人間である俺ですらそれが危ういことくらいわかるよ。ましてや、やったのが無能神なのだからなおさら駄目でしょ。
無能神とはいえ神は神であり、ヴァイスという駄神の加護であっても地上では絶大な力となってしまった。
暴力に支配された組織の崩壊は凄まじく早く、腐敗神ヴァイスイズムはあれよあれよと地上に広まっていった。そして、信仰を歪められたテティオスは急速に弱体化してしまい、逆に信仰心を糧に力を得たヴァイスによって神の座を失墜させられた……ということらしい。
補足だが、ヴァイスが神の座を放棄した際に、加護を受けていた神職やその手下共は、漏れなく全員加護を失った挙げ句に凡夫へと戻り、そして全員処刑された。因果応報って怖い。
いや、そいつ本当に神なの?そこら辺にいる腐敗した既得権益者と何も変わらないじゃん。しかもそんな奴が地上にいるとかウザすぎるなー。
そう思うのと同時に、俺はあることに気付く。
「きっとそのヴァイスとかいう駄神を討つのも俺の使命に入ってるってことだよね。もう色々と融通してもらってるからやることはやるよ」
「さすがアイノじゃ! さすアイ!」
とにかく顔がウザイ。ウラノスのテヘペロがウザすぎてこのジジイも邪神ではないかと疑うレベルだ。
「冗談はさておき……テティオスも思う所があるはずじゃからの、元神じゃし案内役としても最適じゃと思うぞ」
まぁ確かに案内役がいると助かるけど……待てよッ!! テティオスを連れて行って元の力を取り戻し、またジェムボーデンの神に成ることができれば、俺のスローライフは約束されるのでは?とにかく恩を売るだけ売って売って売りまくれば……イケるぞ!! よし決まりだ!!
「わかった! いいぞ! 俺、テティオスと一緒に異世界へ行くよ!」
「今日イチの笑顔が逆に怖いんじゃが……っというか笑顔持ってたんじゃな」
目を点にしながらも、かなり失礼なことを言ってるくるウラノスだが、真面目に話を続けた。
「連れて行ってくれるのは嬉しく思う。ワシではもうどうすることもできないほどに荒廃した世界になってしまったからの……」
「アイノよ、恩に着る……」
ウラノスとテティオスが頭を下げて感謝を述べてきた。頭を上げて欲しい。もう俺は自分のスローライフのことで頭がいっぱいです。
「そういえばテティオスって現状ただの光の玉だけど、どうやって異世界に行くの?」
「それはの、この天降石で作られた勾玉にテティオスの思念体を封入するんじゃ」
「天降石?」
ウラノスは深緑色に光る勾玉を取り出し、その中にテティオスを封入するようだ。
「ひらたく言えば隕石で作られた勾玉じゃな。一般的な翡翠の勾玉に封入すると、転生時に割れてしまうからの。より強固な天降石で作ったというわけじゃ」
「テティオスも封印から出てきたのが最近じゃから、転生時の力に耐えられない可能性もあるからの」
「え?最近まで封印されてたの?」
「浦乃杜神社にしめ縄が張られた巨岩があったじゃろ?あれにテティオスを封印したんじゃ。だいたい二千年くらい前だったかのぉ」
ウラノスはそう言いながら見事に生えそろった髭をなでている。
マジで!? あの巨岩ってテティオスが入ってたのか。毎年しめ縄を張り直してたけど、オジイは何を封印しているのか知らなかったから俺も何が封印されているのか全く知らなかった。テティオスが入っていたことも驚きだけど、うちの神社に二千年もの歴史があったことが一番の驚きだよ。
氏子さん達が語っていた神社の歴史って、案外本当だったのかも知れない。
磐座信仰という形で巨岩に封印し、一定の信仰を得ることで失った神力を補填していたらしいけど、確かにあの巨岩に祈ってる氏子さんも結構いたからな。そんな効果があったとは……信仰は神にとっての糧なんだと肝に銘じておこう。
「じゃぁ、転生の準備を始めるかの」
ウラノスはそう言うと、俺の亜空間収納とやらに家と神社などを次々と入れ始めた。しゅっ、しゅっと突然色々なものが消えるのは実に不思議だ。周囲の使えそうなものも収納したらしいが、ものの数十秒だったのであっけなかった。
建物が一瞬で消え、家跡だけが残ったがこの家跡などはウラノスがよしなにやってくれるとのことで、アフターフォローも万全だ。さすが神。
亜空間収納にあれこれ入れ終えた後、ウラノスがテティオスを勾玉に封入して、異世界へ行く時がきた。ちなみに、その勾玉は首から下げた。
「さて、そろそろ転生の時間じゃ。準備はいいかの?」
「大丈夫。いつでもいいよ。」
「ほっほっほっ。ちなみにワシは向こうでもたまに顕現できるからの。何かあったら相談に乗るぞ」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「では、創造神ウラノスの名の下に、汝、神前愛命をジェムボーデンでの亜神と定める!」
「……」
え、簡素過ぎない?逆に不安になりつつ、そうウラノスが口上を述べたと同時に、愛命の身体が光と煙に包まれ始めた。
「では、お主の活躍、楽しみにしておるぞ」
「あぁ。色々と融通してくれてありがとうな。頑張ってみるよ」
光と煙は徐々に濃くなっていき、愛命の全身が光と煙に完全に包まれた。
そしてその光と煙が消えたとき、愛命とウラノスはその場から姿を消した。
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