テスト最下位の受難
定期テスト。
ネガティブなイメージを抱きがちだが、人によっては羨望の眼差しを浴びるチャンスである。まあ、俺は普通に嫌いだけど。
初めての高校での中間テストを終え、まもなく個票返却の日となった。
帰りのHR。教卓の前では、個票のシステムを酷評した男子生徒が担任に詰められている。
テスト勉強の結果がまとめられたその1枚は、生徒ひとりひとりに対して、担任が夜通し手作業で作成したものらしい。事実だとすれば担任が怒るのも無理はない。無遠慮な発言は避けて欲しいものだ。
重い空気が教室中に流れるなか、担任が男子生徒を開放し、ついに返却が始められた。HRの開始時刻から30分が経過している。あの男子生徒には心から反省して貰いたい。
担任が生徒ごとに違った表情を浮かべつつ、返却が進められていく。しばらくすると、先程の男子生徒の番になった。かなりの酷評ぶりだったが、一体どれだけ点数に自信がないのだろう…。
担任は無表情で男子生徒に個票を渡すと、彼をその友人が取り囲む。正直かなり気になるが、陰キャは大人しく席に座っているとしよう。
彼の結果を見るのは諦め、本を開こうとしたその時、甲高い声が教室中に響いた。
「クラス40人中39位!?」
1人の女子生徒がそう叫んだ。デリカシーが無いと言いたいところだが、結果が気になりすぎるがあまり、今後の学校生活にも影響が出るおそれがあったところだ。今日ばかりは彼女のノンデリさに感謝するとしよう。
ほれ見たかとでも言わんばかりに、担任がこれまでで見たことのないほどの笑みを男子生徒に向けた。やめとけよ。
ビリでもトップでもなく、下から2番目。聞いてる分には、かなりオモシロイ。
男子生徒のその声を皮切りに、先程まで豪雨に見舞われたような雰囲気だったクラスから、突然日差しがさしたかのような賑やかな話し声が聞こえ始めた。
テスト個票を見せ合う者、崩れ落ちる者…帰りのHRが終わるころには、教室は普段の雰囲気に戻っていた。
ただ一人ーーーーーー俺を除いて。
まだ雨はあがっていない。俺の頭上には降り続けている。先程叫ばれた39という数字ーーーーーーあれは逆に、最後の一人の存在を知らしめる結果になった。
この個票を見られるわけにはいかない。家に持ち帰り、16等分に破って捨てる。これで終わるんだ。俺のテストは、テスト用紙の廃棄をもって終了となる。何も難しいことはない。
そそくさと帰り支度を進め、個票を今まさにバッグに入れようとしたその時、
「テスト個票見せてくれる?」
先程のノンデリ女子が話しかけてきた。話したこともない相手に、初めてかける言葉がそれか。ちょうど今、テスト個票を16等分に折ってバッグに突っ込んだところだ。悪いが帰ってくれないか。
「えーと・・・なんで僕なの?そんないい結果じゃないよ」
「だって他のみんなにも聞いたけど、クラス1位が見つかんないんだもん。君と、今日休みの佐藤さんの分が分からないんだけど。君が1位なんじゃないかって。みんなも気になってるから、出して欲しいな。」
断る。
・・・ん?今なんて言った。
「えーと、僕と佐藤さん以外、全員に聞いたの?」
「うん。1位と、実は40位(笑)もわかってなくて…君頭良さそうだし、1位だったら勉強教えてもらおうと思って!佐藤さんも頭良さそうだけど、この前の単語の小テストで結構ミスあったから…」
そうなんだ。俺はその小テスト、1問しかあってなかったけど。30問中。
「ごめん、今日はこの後すぐに部活があるから、また明日でもいいかな?」
「あそうなんだ…私部活入ってないから、ついついのんびりしちゃうんだよね。ごめんね引き止めて」
奇遇だな。俺も入ってない。
俺は彼女に軽く会釈をすると、足早に教室を去った。
自宅に帰ると、個票を計画通りの姿にしてゴミ箱にぶち込み、いつもより早く寝床に着いた。次の日の学校を休んだのは言うまでもない。
あれからというもの、クラスメイトの俺を見る目が変わった気がする。若干憐れむような目。何もしてないのに、居心地はさらに悪くなった気がする。
今なら男子生徒の言い分がわかる。個票なんて配るだけ紙の無駄、資源の無駄なのだ。こうしている間にも、アフリカでは1分間に60秒が経過しているのだ。
俺は次のテストこそ良い点をとって見返してやろうと思いつつ、ソシャゲのデイリー消化を始めるのだった。