第93話 アトラの知と誓い
アトラの宮殿に、深い静けさが戻っていた。
水晶柱に映し出された「黙示戦争」の記録は、ノラたちの胸に爪痕を残しながらも
同時に、未来を選ぶ責務を強く意識させていた。
海王ジークは表情を崩さず、低く重い声を響かせる。
「お前たちが見たのは、この星に刻まれた真実の一部にすぎぬ。
だが水はすべてを記憶し、海は決して忘れぬ。海はまた、真実を見抜く」
ノラは義手を見つめ、静かに、しかし力強く呟いた。
「……俺は忘れません。過ちを刻み、未来を変えるために、この夢を必ず守る」
クロも頷き、真剣な眼差しを向ける。
「俺は旅を始める前までは司法警察として秩序を守ってきた。だが真実を知った今、守るべきは法だけじゃないと心得ています。
平和の代償を背負う覚悟が、俺にはあります」
ジークの瞳が彼を射抜くように見据え、ゆるやかに瞬いた。
「……強き犬族よ。己の影を恐れぬその姿勢、しかと受け取った」
タロが胸に拳を当て、声を張った。
「僕は……夢を探してる。まだ小さいけど、イヴやみんなと歩いていけば、きっと見つけられる!」
イヴも隣で頷き、澄んだ声で続ける。
「私は……夢を信じたい。儚くても諦めず抱き続ければ、きっと誰かの力になれるから」
ジークの深い眼差しが二人に注がれる。
「若きトヒよ……お前たちは希望そのものだ。その夢を最後まで信じ抜けるなら、海はお前たちを拒まぬ」
最後に、ミロが一歩進み出る。
胸に手を当て、凛とした声で誓う。
「私はリーフラ族の王女として旅に同行している。だが今は、一人の仲間として……皆と共に進むことを選びます」
ノラもその言葉に頷き、仲間を振り返りながら声を重ねた。
「俺たちは――黙示戦争の過ちを繰り返さない。
ルーン石を集め、この世界を必ず守る」
ジークはしばし沈黙し、やがて大きく尾を振った。
水晶柱から無数の光の粒が溢れ出し、宮殿全体を覆う。
それはまるで海そのものが誓いを祝福するかのように、仲間たちを温かく包み込んだ。
「その誓い、アトラは受け取った。
――行け、若き者たちよ。湖の記憶と海の知を胸に、次なる試練へ向かえ」
青き光の中で、一行の心はひとつになった。
新たな誓いと共に、彼らの旅路は再び動き出す。




