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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
1章ヤマト(1)

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9/201

第9話 兄の影を追って

夕暮れの草原を後にしたノラとクロは、ヤマトへの帰路を歩いていた。

空は茜色から群青へと変わり、星々が瞬き始める。


沈黙が長く続いた。

ノラは義手を握りしめ、クロは制服の襟を正すように指でなぞる。

互いに言葉を探していた。


先に口を開いたのはクロだった。


「兄さんが死んだあの日……俺はまだ子供で、戦場には立てなかった」


低く落とされた声には、悔しさと後悔が入り混じっていた。


「報告書には“戦場で戦死”とだけ記されていた。だが、俺は信じられなかった。

 兄さんは強くノラと一緒の破邪衆で六破。誰よりも優しかった。幼かった俺にとって、兄さんは……父親みたいな存在だったんだ」


クロの眼差しは真っ直ぐだった。

その奥には昇華できぬ怒りと悲しみが渦を巻いている。


ノラはゆっくりと頷いた。


「……俺も同じだ。シロは、俺を救うために……」


言葉は途切れた。

夢で繰り返し見てきた光景が脳裏に蘇る。

血に染まった純白の毛並み、飛び去る空族の影。

あの瞬間の真実は、いまだ闇に包まれたままだ。


二人が歩みを進めると、郊外の農場が視界に入った。

木柵で囲まれた畑では、トヒたちが黙々と働いていた。

首輪をつけられ、馬車を引き、荷を背負い、汗と泥に塗れながら――ただ命じられるままに動き続ける。


「あぁ……うぅ……」

声にならない呻きが夜風に混じり、かすかに耳へ届いた。


ノラは拳を握りしめ、言葉を失った。

クロは立ち止まり、夜空を仰いだ。


「司法警察の任務としてではなく……弟として、俺は兄の真実を知りたい」


その声には、誓いが込められていた。


ノラも静かに義手を掲げた。

金属の光が月明かりに反射し、冷たく輝く。


「なら一緒に行こう、クロ。

 お前が兄を追うなら、俺は“あの日の答え”を探す。

 シロの死が意味するものを、俺たちの目で確かめるんだ」


風が柵を揺らし、労働に殉ずるトヒの影をかすめていった。

統一戦争から孤独だった道が、今は二人かつてのシロとノラ…犬族と猫族で並んでいる。


その足取りは、迷いなく前へと向かっていた。

だが彼らを待つのは、真実か、それともさらなる絶望か。まだ誰も知らなかった。

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