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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
10章 アトラ

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89/201

第89話 海底都市アトラ

水面を割った瞬間、世界は青一色に染まった。

光の粒子が降り注ぎ、波紋に揺らめいて宝石のように煌めく。

ノラたちの身体はアクアリスと水精の加護に包まれ、まるで海と一体化したように自然に泳げていた。


「……すごい……」

イヴが吐息のように呟く。その瞳は驚きと感動に大きく見開かれていた。


「ほんとに息ができる! しかも身体が軽い! 空を飛んでるみたいだ!」

タロも無邪気に笑い声をあげ、くるくると回転してみせる。


クロは周囲を冷静に見渡し、低く呟いた。

「これが……海の世界……。静かすぎるな」


オルガとブチが先導し、仲間たちは海流に身を任せて潜っていく。

やがて視界の奥に、巨大な影が揺らめいた。


それは……海底に広がる幻想都市。


珊瑚の塔が幾重にも重なり合い、透明なドームのような構造物が光を集め、街全体を覆っている。

その中では無数の灯が瞬き、魚たちが縦横無尽に泳ぎ、まるで星空を逆さに映したかのような光景が広がっていた。

遠くの街路では海族の影が行き交い、水草を編んだ布が潮に揺れている。そこには確かに“生きる都市”の息遣いがあった。


「これが……アトラ……!」

ノラは思わず言葉を失った。


ミロも胸に手を当て、そっと微笑む。

「……こんなにも美しい場所が、まだ世界に残っていたなんて」

同時に父ブルの言葉を思い出す。

(……夢を奪わぬ未来を見届ける。そのために、私はここに来たんだ)


「見惚れるのは分かるけど、口開けすぎると魚が入っちゃうぞ!」

ブチが茶化すように言い、タロが慌てて口を閉じる。

「え、ほんと!? ……って、冗談だよね!?」

イヴが思わず吹き出し、緊張が少し和らいだ。


オルガは横目でそのやり取りを見やり、鼻で笑った。

「くだらん冗談を……だが、確かに気を抜くな。この都市に入るには“門”を越えねばならん」


クロが鋭い眼差しで問いかける。

「門……?」


「アトラの門は心を欺かぬ。恐れや偽りは必ず暴かれる」

オルガの声は低く響き、尾が水を切った。

「ジーク様に会う前に、門を守る者たちがお前たちの“心”を量るだろう」


静謐な海の中、ノラは義手にヒトフリを握りしめ、仲間を振り返った。

タロは期待に目を輝かせ、イヴは真剣な表情で頷き、ミロは落ち着いた微笑みを浮かべている。


「イヴさん、あなたの目……強くて優しい光をしていますね。きっと、この海も受け入れてくれます」

その言葉にイヴは一瞬驚いたが、すぐに小さく微笑み返した。


クロは静かに前を見据え、決意を固める。


「なら、受けて立つしかないな」

ノラの声は、青い世界に溶け込むように響いた。


やがて一行の前に、光り輝く大門が姿を現す。

そこから流れ出る圧倒的な気配は、ただの海流ではなく、“意思”を持つ存在のようだった。


アトラの心臓部――海王ジークの玉座へ続く道が、いま開かれようとしていた。

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