第79話 旅立ちの朝
朝日が高原を照らし、露に濡れた草原が黄金に輝いていた。
ハコニワの門前に立ったノラたちは、それぞれの装備を整え、新たな一歩を踏み出そうとしていた。
ブルが堂々と立ち、深い声で告げる。
「ノラ、クロ、ミロ、そしてトヒの子らよ。
この地で学んだことを胸に刻み、進むがいい。
お前たちの旅路が、必ずや未来を切り開くことを信じている」
四天王たちも後ろに並び、無言で拳を掲げた。
それは言葉に代わる誓いのしるしだった。
ノラは義手を握りしめ、深く一礼する。
「必ず答えを見つけて戻ります。夢を奪わぬ未来を――」
クロも隣で剣を掲げ、静かに言葉を重ねた。
「俺も学ばせてもらいます……王とは何かを。
その覚悟を胸に刻むために、この旅を全うします」
ミロは父ブルを真っ直ぐに見据え、力強く頷いた。
「必ず、この目で真実を見極めます」
タロは胸を張り、イヴはその横で優しく微笑んだ。
二人の瞳には、不安よりも希望の光が宿っていた。
仲間たちは門を越え、広大な大地へと歩み出す。
新たな旅の幕開けに、朝の光が彼らの背を押していた。
――だが、その直後。
ハコニワのあるトヒ牧場に異変が起きていた。
数十、いや数百ものトヒたちが、柵も破られず、跡形もなく姿を消していたのだ。
「な、なんだこれは……!? 夜の見回りでは確かにいたはずなのに……!」
牧場の管理者たちが青ざめ、慌てふためく。
不自然な足跡も、争った痕跡も何ひとつ残されていない。
ただ忽然と――夢も声も奪われたかのように、トヒだけが消えていた。
やがて、その報せは静かにハコニワ全体を揺るがし始める。
「誰が」「なぜ」トヒを奪ったのか――答えは霧に包まれたまま。
だがその陰で、湿地の奥深く。
ナーガとコドラの冷たい笑みが、闇に溶けていた。




