第73話 再びハコニワへ
夕日が落ち、夜明けの光が差し込む頃――
ノラたち一行は、緑豊かな大地を抜け、再び西の地「ハコニワ」へと辿り着いた。
広大な牧草地が広がり、澄んだ空気に家畜化されたトヒたちの声が混じる。
人々の笑顔、穏やかな営み。
その光景は、前に訪れた時と変わらぬ平和そのものに見えた。
だがノラの胸には、
「この平和の裏には、まだ隠された真実があるはずだ」と直感していた。
クロが隣で低く言う。
「表面上は平和でも……リーフラ族が抱えているものは重い」
タロとイヴは、牧場の柵越しにトヒたちを見つめていた。
「……久々だね。静かだね」
「うん。でも……なんだか、ちょっと寂しそうにも見える」
その言葉に、ノラの胸がわずかに痛んだ。
(トヒはただの家畜じゃない……俺たちと同じ“夢”を持てる存在のはずだ)
やがて、一行の前に屈強な王が現れた。
リーフラ族の王、ブルだった。
「よく戻ったな、旅人たちよ」
ブルの声は低く響き、しかしその奥には父のような温かさが滲んでいた。
ノラは深く頭を下げる。
「南西湖で試練を越えてきました。……夢が、力になることを知りました」
ブルはわずかに目を細め、戦士のような眼差しで頷いた。
「夢……か。お前たちがそれを掴んだのならば、語るべき真実もある」
その背後から、勇敢な眼差しを持つ少女が歩み出てきた。
リーフラ族の王女――ミロである。
「ノラ、クロ……!」
ミロは目を潤ませ、駆け寄ってきた。
「あなたたちが無事で本当に良かった! ……そして、タロ、イヴ。
その、幼さでここまでよく旅を耐え抜いたね。あなたたちの夢と勇気がなければ、この再会も叶わなかった」
タロは驚きに目を丸くし、イヴは頬を赤らめてうつむいた。
クロが問いかける。
「ミロ……お前が言う“真実”とは何だ?」
ミロは一瞬言葉を飲み込み、強い決意を込めて口を開いた。
「トヒの家畜化――その裏にある、本当の理由を。
それを、あなたたちに知ってほしい」
夜明けの光が牧場を照らす中、
リーフラ族が抱え続けてきた重い真実が、いま明かされようとしていた。




