第70話 試練の果て
湖面を割るように跳ね上がったヒッポの巨体が、最後の力を込めて突進してきた。
水柱が天へと伸び、轟音と共に湖全体が震える。
「これで終わりだ――!」
ヒッポの咆哮が響き渡る。
ノラは《ヒトフリ》を構え、仲間を背に立ちはだかった。
「夢は……幻じゃない! みんなの想いで、現実に変えてみせる!」
クロが隣に並び、剣を掲げる。
「俺たちは力に屈しない。未来を選ぶのは――夢だ!」
その瞬間、タロの胸から溢れる光が強さを増した。
「守りたい……みんなを守りたい!」
イヴも声を重ねる。
「一緒に生きたい……その夢がある限り、負けない!」
二人の想いが重なり、湖面に大きな光の波紋が広がった。
その光はノラとクロの刃に宿り、力強い輝きとなる。
「いくぞ――!」
二人は同時に踏み込み、刃を交差させるように振り抜いた。
――閃光。
轟音と共に、ヒッポの巨大な鉄槌を弾き飛ばし、衝撃でヒッポも湖面に崩れ落ちた。
濁った水が波紋を広げ、やがて静寂が訪れる。
荒い息を吐きながら、ノラは剣を収めた。
タロとイヴの光はまだ淡く揺れており、仲間を優しく包んでいる。
その時、湖の中央――水面が割れ、そこから淡い輝きが姿を現した。
大きな石、しかし不思議と柔らかな光を放つ。
「……これは……!」
クロが目を見開く。
ヒッポはよろよろと立ち上がり、その石を見つめた。
「なるほど……やはりそうか。コドラに渡ったものは“殻”……力を失った石にすぎなかった。
本物は……夢を託す者の前にしか現れぬのだ」
ノラは輝く石に手を伸ばし、静かに呟いた。
「石は……奪うものじゃない。
夢を信じ、仲間を信じる心に応えてくれるんだ」
ヒッポの口から、低い笑いが漏れた。
「フフ……面白い。ならば、その夢……湖王として託してやろう」
湖王の瞳に宿る光は、怒りでも憎しみでもなかった。
敗北を認め、次代に夢を繋ぐ王としての眼差しだった。
ルーン石の輝きが一行を包み込む。
それは勝利の証であるが
「夢と信頼を重ねる者たち」への祝福のようだった。




