表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
1章ヤマト(1)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/201

第7話 依頼"昆虫討伐"

郊外の草原に吹く風は、いつになく重たかった。

陽光を遮るほどの羽音が轟き、地面を這う異形の気配が空気を震わせる。


「来たか……」

ノラは義手で刀の柄を握り直し、目を細めた。


黒光りする無数の脚が土をえぐり、ぎらつく複眼が光を反射する。

現れたのは巨大な 《オオゲジ》。

その背後では、鋭い脚を持つ 《大バッタ》 が跳ねるように身構えていた。


依頼内容は――昆虫討伐。

返礼品は旧時代の音楽媒体レコード

ノラの胸は高鳴り、同時に冷ややかな研ぎ澄ましが訪れる。


「……行くぞ、《ヒトフリ》」


鞘から抜かれたのは、旧時代の「刀」を

再構築したもので、金属と植物繊維を融合させた複合素材。

星を汚さず、ナチュラビストの理念に沿った武器だった。


その一振りには、かつてノラがたくさんの戦場で生き延びた誇りと記憶が宿っていた。


大バッタが一気に跳躍する。

刹那、ノラの身体は風を裂き疾駆する。


「――ヤマト無双流・初破!」


大地を蹴り、弧を描いた刃が脚を断ち切る。

緑の体液が飛び散り、草原に滴る。

怒り狂ったオオゲジが唸りを上げ、鎌のような脚を振り下ろした。


だがノラの眼差しは揺らがなかった。


ヤマト無双流を極めた者が師範を超えると、

僅か六席しかない 《破邪衆》に挑戦でき

その名誉ある席を武によって

現、破邪衆に勝利した際に入れ替わる。

だが、ヤマト無双流の師範達は各族王の側近程の強さを誇る為

師範まで到達する者はそもそも極僅か。

別名、《六破》 と呼ばれ、ノラは六席の内の一人。

統一戦争以前からヤマト無双流は存在する。

戦争が終結し、世界から争いが無くなり

平和なナナシの世界であるが

ヤマト無双流は武道として国技で残り

今も変わらずヤマトの民の多くは

勇猛さに磨きをかけ日々鍛え励んでいる。


ノラは六破として片腕を失ってもなお、その技は鈍らず、むしろ研ぎ澄まされていた。


義手が軋み、刃が閃く。

「これくらい……朝飯前だ」


多脚が次々と切り落とされ、巨体は地をのたうち、やがて動きを止める。

最後に大バッタの首を断ち切ると、草原に再び静寂が戻った。


ノラは息を整え、刃を拭った。

その瞳に浮かんでいたのは戦士の冷徹さではなく、研究者の好奇心だった。


「レコード……どんな音が刻まれているんだろうな」


そう、呟きながら依頼達成した。

これで返礼品と交換できる返礼券を得られる。


風が吹き抜ける草原に立ち尽くすノラの背は、孤独でありながらも確かな誇りを帯びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ