第69話 夢と力の激突
湖面を揺るがす咆哮が収まると同時に、ヒッポの巨体が水を蹴り、一気に突進してきた。
水柱を巻き上げるその勢いは、まるで湖そのものが牙を剥いて襲いかかるかのようだった。
「来るぞ!」
クロが叫び、剣を構える。
ノラは《ヒトフリ》を握りしめ、真っ向から踏み込んだ。
「俺たちの夢を――叩き込む!」
刃と牙が激突し、衝撃が湖面を割った。
飛沫が弾け、光が反射し、戦場は一瞬にして混沌と化す。
ヒッポの口から低い唸りが響く。
「夢など、力の前では脆い!」
ノラは必死に押し返しながら叫んだ。
「脆くてもそれを信じる心がある限り、折れない!」
クロが横から斬り込み、ヒッポの鉄槌を受け止め牽制する。
「ノラを一人にはさせん!」
その背後で、タロが胸に手を当て、震える声を上げた。
「守りたい……僕は、みんなを守りたい!」
淡い光が再び広がり、ノラとクロの身体を包んだ。
ヒッポの鉄槌が触れる寸前、その光が盾のように弾き返す。
「なに……?」
ヒッポの目が驚愕に見開かれる。
イヴが両手を広げ、澄んだ声で叫んだ。
「夢は幻じゃない! 一緒に信じれば、力を越えられる!」
その声に呼応するように、オッドアイが蒼と金に輝き、また、二人の疲労を癒していく。
「イヴ……タロ……!」
ノラは胸に熱を感じながら再び前へ踏み込む。
《ヒトフリ》が弧を描き、ヒッポの巨体に鋭く迫る。
クロも同時に剣を振るい、二つの光が交錯した。
轟音が湖を揺るがし、ヒッポの巨体が大きく後退する。
だが、その眼光にはなお炎が宿っていた。
「夢……か……。ならばその幻で、最後まで抗ってみせろ!」
ヒッポの巨体が再び跳ね上がり、湖全体を巻き込むような黒い波が押し寄せる。
夢と力その激突は、いよいよ決着の時を迎えようとしていた。




