第6話 紹介所の少女チロ
紹介所の扉を押し開けると、温かな喧騒が広がった。
木と金属で造られた広間の中央には、巨大な電子板が光を放ち、依頼の一覧が次々と映し出されている。
獣耳や羽を持つ者たちが集まり、依頼を吟味しながら談笑していた。
ノラはその中を無言で進み、掲示板の前に立った。
流れる文字をじっと目で追う。
危険な討伐、古代遺物の発掘、村の護衛、子守りに至るまで――依頼は多種多様だ。
「また悩んでる〜!」
背後から元気な声が飛んできた。
振り向くと、黒白茶の三毛柄の犬族の少女が笑顔で手を振っていた。
大きな耳がぴょこんと揺れ、愛嬌たっぷりの仕草が広間を一層明るくする。
「おはよ、ノラ!」
「……おはよう、チロ」
チロ。
ノラの親友シロの妹であり、今はこの紹介所で働き、依頼者や解決者のサポートを担っていた。
「ノラってば、いつも依頼板の前で固まってるんだから。
一日で三件くらい解決できるんでしょ? そんなに悩むなら、私が選んであげようか?」
「……仕事は慎重に選ぶものだ」
「真面目〜! だからシロ兄も、ノラに任せられるって言ってたんだよ」
その名を聞いた瞬間、ノラの胸にかすかな痛みが走った。
だが、チロの明るさはそれを打ち消すように、空気を軽くしてくれる。
「そういえばね」
チロは小声で身を寄せてきた。
「郊外から来たおばあちゃんと子どもが、昆虫討伐の依頼を出してたよ。
返礼品、見た? 黒い円盤だったんだって」
「……黒い円盤?」
ノラの目が見開かれる。
急いで視線を一覧に戻す。そこにはこう記されていた。
――依頼:郊外の巨大昆虫討伐
――依頼者:ナナ村の民
――返礼品:旧時代音楽媒体 “レコード”
「……レコード……!」
かつて人類=トヒが残した音楽の媒体。
ノラにとっては、遺物研究者として垂涎の品だった。
胸の奥が高鳴る。
彼は即座に“解決者”として名を記入した。
「やっぱり飛びついたね!」
チロが楽しげに笑う。
「ついでにね、もう一件。統一政府の依頼で“昆虫市場納品”ってのもあるんだ。
どうする? 欲張っちゃう?」
ノラは少しだけ考え、そして頷いた。
「……二件なら、いける」
「は〜い! じゃあ受付しておくね。無理はしすぎないでよ〜」
チロの笑顔に見送られ、ノラの一日はまた新しい依頼と共に始まろうとしていた。




