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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
6章 レプタ(1)

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58/201

第58話 沼族の王

森の奥へと進むにつれ、霧は濃く立ち込め、仲間たちの呼吸さえ重く沈んでいった。

太鼓の音が一際強く響いたその時――


「……待て」


低く落ち着いた声が霧の奥から届いた。

現れたのは、丸みを帯びた体躯を持つ大カエルのナチュラビスト。

その眼差しは厳しさと優しさを併せ持ち、ノラたちを静かに見据えていた。


「自分はベル。湖王トールの弟子にして、今はナーガ様の側に仕える者だ」


クロが小さく目を見開く。

「ベル……あの幻影で、必死に仲間を止めていた男……」


ベルルが慌てて兄の前に進み出て、深く頭を下げた。

「兄上! 彼らは敵ではありません。師の御心により、ここへ導かれた旅人です」


ベルはしばし沈黙し、弟の背を見つめる。

そして、静かに頷いた。

「ベルル……お前の言葉を信じよう。だが、この先は危うい。お前は湖に戻れ。ここから先は俺が引き受ける」


ベルルは悔しげに唇を噛んだが、やがて振り返り仲間たちへ微笑んだ。

「師の言葉を胸に……夢を忘れないでください。私は湖で待っています」


その小さな背中が霧の中に消えていくと、ベルはノラたちに向き直った。

「……これより先は、ナーガ様の御前だ。言葉に惑わされぬよう心を整えておけ」


その言葉を合図のように、霧の奥で水面が大きく割れた。

長大な胴体をうねらせ、金色の双眸が闇を切り裂く。

鱗に覆われた巨躯――沼族の王、ナーガが姿を現した。


クロが身体を強張らせ構える。

「……沼王ナーガ」


族王の名が低く呼ばれた瞬間、森全体がざわめきを増した。

いよいよ、沼王との対峙が始まろうとしていた。

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