第53話 湖王の託宣
沼族の影が去り、湖畔には再び静けさが戻っていた。
だが仲間たちの胸には、投げかけられた「リーフラ族、空族こそ悪」という言葉の棘が残っていた。
タロが俯き、かすれた声で呟く。
「……もし、本当にそうだったら……俺たち、どうしたらいいんだろう」
イヴも胸に手を当て、か細く続ける。
「言葉ひとつで……こんなにも揺れるなんて……」
トールはゆるやかに湖面へと首を向けた。
「揺らぐことを恐れるな。揺らぎは心が生きている証。
大切なのは――揺らぎの果てに、何を選ぶかだ」
ノラはその背を見つめ、問いを投げる。
「……あなたは弟子に裏切られても、なぜ待ち続けるんですか?」
トールの瞼が閉じられ、重く、しかし慈しみに満ちた声が返ってきた。
「裏切りではない。彼らは夢を見失っただけ。
ならば、いつか取り戻すと信じて待つことこそ、師の務めだ」
クロは唇を噛みしめ、深く頷く。
「……それが“信じて待つ強さ”……なのか」
「そうだ」
トールの声は湖底から響くように重く、だが温かかった。
「力は奪うものではない。夢は託し、信じ、繋げてこそ輝く。
その光こそが、お前たちの進む道を照らすのだ」
タロは拳を握りしめ、力強く言った。
「じゃあ俺……もっと夢を語る! 誰かが笑ってくれるまで!」
イヴも瞳を潤ませながら頷いた。
「私も……信じてみる。夢を奪わせないために」
ノラは二人を見て、心の奥で熱を感じた。
(……夢を力に変える強さ。奪われても、信じて待ち続ける強さ……俺も背負わなきゃならない)
その時、傍らに立つベルルが一歩前に進み出て、膝をついた。
「師よ。誤解を招かない様に……彼らをしっかりと兄ベルへ繋げさせて頂きます」
トールは静かにうなずき、ノラたちへと視線を戻した。
「夢を抱く者たちよ。次に進むべきは沼の地レプタ。
そこで待つ真実を、このベルルと共に確かめるがいい」
ノラは義手を握り、仲間たちと視線を交わした。
「……分かった。必ず確かめる。俺たちの夢の答えを」
クロもまた低く言葉を重ねる。
「秩序の意味も……兄さんの死の真実も。その目でな」
湖面に月が映り、四人とベルルの影を長く伸ばしている。




