第50話 トールの真実
湖面に映し出された幻影が消え、再び静寂が訪れた。
ただ、風と水の音だけが耳に残る。
トールは悠然と首を動かし、四人を見渡した。
「見たとおりだ。弟子たちは石を奪った。だが……ルーン石だけでは、ルーン石に本当の力の意味は宿らない」
クロが目を細める。
「本当の力……?」
「ルーン石とは、ただの器にすぎぬ。
光も力も、持つ者の夢と信頼が宿ることで初めて輝くのだ」
その声は湖の底から響くように重く、しかし温かだった。
「奪い、握りしめても……夢なき者の手では、やがて光は濁る。
だが、夢を抱き、誰かを信じる者が触れれば――石は未来を映す」
タロが驚いたように声を上げる。
「じゃあ……石が力を持つんじゃなくて、持つ者が……!」
トールは静かにうなずいた。
「そうだ、少年よ。
お前たちが夢を語り続ける限り、その夢が力となる」
イヴは胸に手を当て、少し震えながらも問うた。
「……でも、もし夢を失ったら?」
「そのときは、光は消える。
だからこそ夢は奪い合うものではなく、互いに託し、繋げていくものなのだ」
ノラはその言葉を聞きながら、義手に鈍い熱を覚えた。
金属の奥で何かが共鳴し、淡い光が滲む。
トールの瞳がゆっくりとノラに向けられる。
「……何か分からぬがお前の血には、古きものの響きがある。
猫族よ。お前はまだ自覚していないだろうが、その血筋はきっと“継承”を選ばれた証だ」
ノラは息を呑み、無意識に義手を押さえた。
その瞬間、トールはさらに低く付け加える。
「それに……お前の義手には、ルーン石に近い何か“特別な素材”が使われているようだ。
ただの義手ではない……古の時代にしか採取出来ぬものだろう」
ノラの胸の奥がざわめく。
(特別な……素材……? 俺の義手が……?)
義手はヤマトにて、統一戦争前に武器屋を営んでた者に作ってもらい
素材は言われたものを自分も集めたが
特に思い出すことはできなかった。
クロが一歩前へ出て、迷いのない声で言った。
「真実を聞いても、俺は揺らがない。
夢と秩序を重ねて守る、それが俺の道だ」
トールは満足げに瞼を閉じ、深い声を響かせた。
「ならば進め。奪われた石を追うな。
やがて石は、お前たち自身の夢に応える形で戻る。
信じ、待ち、託せ。それこそが未来を繋ぐ力である」
湖面が再びきらめき、四人を照らす。
その光はまるで、彼らの胸に宿る夢を一つひとつ確かめるかのようだった。




