第48話 知の試練(1)
湖面が淡く光を帯び、静かな水が鏡のように揺らめいた。
ノラたちの姿が映し出されたかと思えば、その影は少しずつ形を変え、別の映像へと移り変わっていく。
「……これは?」
タロが小声で呟く。
「過去の幻影だ」
トールの声が重く響いた。
「我が弟子たちが、まだ若かった頃の姿――」
水面に浮かび上がったのは、三つの影。
蛇のようにしなやかな体躯で瞳を燃やす青年。
丸々とした体躯ながらも、穏やかで包み込むような眼差しを向ける男。
そして鋭い爪を構え、戦士の本能を全身にまとった獰猛な若者。
「ナーガ……ベル……そしてコドラ」
クロが息を呑むように名を呼んだ。
幻影の中で、若きナーガは熱を帯びた声で問いかける。
「師よ、教えてください! ルーン石とは何なのですか?
どうすれば我らはその力を手にし、この星を守れるのですか?」
その声は真っ直ぐで、夢を追う者の輝きを宿していた。
隣でベルが穏やかに頷き、コドラは拳を固く握りしめる。
「俺は誰よりも強くなりたい! レプタを守る戦士に!」
トールは静かに三人を見つめ、深い声で答えた。
「力とは奪うものではない。信じ、待ち、託すものだ。
ルーン石は器にすぎぬ。その真の力は――お前たち自身の“夢”に宿る」
「夢に……」
ナーガが繰り返す。
だがその瞳の奥には、すでに不安と焦りの影がちらついていた。
次の瞬間、湖面の幻影は淡く揺らぎ、やがて霧散していった。
トールはゆっくりと瞼を閉じる。
「弟子たちは確かに夢を持っていた。だが……夢は時に歪み、欲望へと変わる」
イヴが小さく肩を震わせ、かすかな声を漏らした。
「……私たちも……そうなってしまうの?」
ノラはその横顔を見やり、力強く首を振った。
「いいや。夢は守るものだ。……俺たちは、絶対に歪ませはしない」
湖畔に風が吹き抜け、水面が再び揺れ始める。
やがて次なる幻影が浮かび上がろうとしていた――。




