第46話 南東湖への道
ヤマトを出立して三日。
ノラたちは森を抜け、湿り気を帯びた空気の漂う街道を進んでいた。
遠くに霞む水の気配――そこが、知の湖と呼ばれる南東湖だった。
「ねぇノラ、湖ってどれくらい大きいの?」
タロが小走りで先を行き、振り返る。
「星を映す鏡って呼ばれるくらいだ」
ノラは淡々と答える。
「昼は太陽を、夜は月を。すべてを受け入れる湖だ」
イヴは足を止め、木々の隙間から差す光に目を細めた。
「……きっと、静かで優しい場所。でも同時に……怖い」
オッドアイが捉えるのは、言葉にできぬ直感だった。
クロが周囲を警戒しつつ低く告げる。
「お前の勘は侮れない。……気を引き締めろ。
この辺りには、すでに沼族の影が伸びているはずだ」
その言葉に、ノラの耳も自然と立った。
風に混じるかすかな水音、葉陰のざわめき――
確かに誰かの視線が、森の奥から彼らを見ていた。
やがて街道を抜けた先に、広大な湖面が姿を現した。
雲間から射す光を受け、湖は銀色に輝き、波紋ひとつなく静かに広がっている。
その光景は荘厳で、息を呑むほどだった。
「……きれい」
イヴの小さな声が、誰よりも真実を突いていた。
ノラは胸の奥で震えを覚えた。
懐かしさにも似た感覚――
(ここに……俺たちが知るべき答えがある)
湖畔の岩陰に、ひとつの巨大な影があった。
ゆっくりと動き出すそれは、悠然とした大亀の姿をしている。
「……お前たちを待っていた」
低く重い声が湖面を揺らし、波紋のように四人の胸に広がっていった。
湖王――トールとの出会いが、今まさに始まろうとしていた。




