第44話 古代の手掛かり
紹介所の掲示板に、新たな依頼が貼り出された。
【依頼:旧時代遺跡の調査と遺物の回収】
依頼主は統一政府の調査局。報酬は保存状態の良い返礼品だという。
ノラは迷わずその依頼を手に取った。
「……行こう。何かが、俺たちを待っている気がする」
クロは腕を組み、慎重に頷く。
「旧時代の遺物か。司法警察でも触れることの少ない代物だ。
何が眠っているのか……警戒は怠るな」
タロは好奇心に目を輝かせ、イヴは小さな不安を抱えながらも彼らの背に寄り添った。
――
遺跡はヤマト郊外の森の奥深くに眠っていた。
苔むした石壁、崩れかけた柱、草木に飲み込まれながらもなお立ち続ける廃墟。
かつて人間〈トヒ〉が築いた文明の残滓が、ここに静かに息づいていた。
「わぁ……本当にトヒがこんなものを?」
タロが感嘆の声を上げ、崩れた壁に触れた。
その瞬間、淡い光が走り、壁一面に古代文字が浮かび上がる。
「……タロ!」
イヴが驚いて彼の腕を引いた。
だが光は害をなすどころか、むしろ彼を温かく包み込むように消えていった。
クロが目を細め、光の残滓を凝視する。
「……やはり。古代の仕組みは、トヒを“鍵”としているのかもしれない」
ノラは壁に浮かぶ文字を見つめ、胸にざわめきを覚えた。
その瞬間――義手に鈍い痛みが走った。
「……っ!」
金属の接合部が震え、義手の奥から熱が広がる。
古代の文字と義手が呼応し、まるで封じられた何かが目を覚ますように共鳴していた。
「ノラ、大丈夫!?」
チロが駆け寄ろうとするが、ノラは苦笑して首を振る。
「平気だ……ただ、何かを……思い出しそうなんだ」
壁に刻まれた古代文字は、淡く光りながら三つの語を繰り返していた。
――「力」
――「夢」
――「継承」
イヴが小さく呟いた。
「これは……夢を紡ぐ者に与えられる力……?」
ノラは荒い息を整え、義手を胸に押さえながら決意を固める。
(……俺の中に眠るもの。これが答えへと導く……)
やがて彼らは遺跡の奥で、黒ずんだ金属片と小さな水晶を発見した。
水晶は微かに光を宿し、触れると低い振動音を放つ。
クロが慎重に袋へ収め、頷いた。
「これが“依頼品”だな。報告用に持ち帰ろう」
ノラは水晶を見つめながら、まだ胸の奥に残るざわめきを抑えきれなかった。
――調査と回収は完了した。
だが、この遺物が示す“継承”の意味は、まだ扉の奥に隠されている。
次の依頼が、彼らをさらに深い真実へと導こうとしていた。




