第40話 旅立ちの誓い
ハコニワを包む朝霧は、まだ草原の上に漂っていた。
牧場の柵越しに、タロが大きく手を振る。
「ノラ! クロ! 俺たちも行く! 一緒に旅したい!」
その声は無邪気で、未来を信じて疑わない輝きを放っていた。
イヴは彼の隣で静かに頷き、オッドアイの瞳でノラを見つめる。
「私たちの夢……小さなものだけど、それでも支えになれるなら」
ノラは二人を見つめ返し、ゆっくり頷いた。
「お前たちの夢は……きっと、この旅に必要になる」
その時、背後から重い足音が響いた。
振り返ると、ブル王が立っていた。
その威容は変わらず圧倒的だが、昨夜のような怒りの色はなかった。
「猫族の六破ノラ……そして司法の犬族クロ。この異端のトヒを連れて行け。そしてお前たちの道を進むのだ。
だが忘れるな?夢を背負う者は、その重みと血をも共に背負うのだ」
その言葉は試練であり、同時に送り出す父のような響きを帯びていた。
ノラは深く頭を下げた。
「……必ず、この答えを見つけて戻ります」
クロもまた、王の視線を真っ直ぐに受け止める。
「兄さんの死の真実と、この秩序の意味……俺が必ず確かめる」
ブルは何も言わず、背を向けて去っていった。
その巨体が霧の中に消えていくと、残された空気には重くも静かな余韻が漂った。
ノラは短く頷き、その言葉を胸に刻んだ。
そして――旅立ちの時が来た。
ノラ、クロ、タロ、イヴ。
四つの影が朝霧を裂き、ハコニワを後にして新たな道を進んでいく。
その背には、リーフラ族が背負ってきた責務と犠牲の重みが、静かにのしかかっていた。




