第4話 ノラの悪夢
轟音。
大地を揺るがす怒号と、血の匂い。
ノラは土煙に飲み込まれ、荒れ果てた戦場の只中にいた。
視界の端で、白い影が彼を突き飛ばす。
「ノラ、危ない──!!」
次の瞬間、左腕に激痛が走った。
閃光が腕を薙ぎ、骨ごと吹き飛ばす。
視界は真っ白に染まり、世界の音が遠のいていく。
倒れた先に見えたのは、血に染まった白い毛並みだった。
純白の犬族――シロ。
ノラの親友であり、戦場を共に駆けた唯一無二の存在。
その胸から溢れる赤は、止まることなく大地を濡らしていく。
ノラは声を振り絞った。
「シロ……! シロォッ!!」
だが返事はなかった。
戦場の喧噪が、彼の叫びをかき消していく。
すぐ傍らを、羽音を立てて一人の空族が飛び去っていった。
味方か、敵か。
ノラには、もう判別できなかった。
「……シロ……」
呟きは寝言のように小さく、そして虚ろだった。
――そこで、ノラは目を覚ました。
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薄暗い部屋。
布団に包まれた身体は汗に濡れ、胸は荒く上下している。
鼓動はまだ戦場の只中にいるかのように早かった。
ゆっくりと視線を横に向けると、机の上に置かれた写真立てが目に入る。
そこには、笑顔で肩を組む二人の姿。
白い犬族――シロ。
そして、その隣でまだ片腕を失う前の自分、ノラ。
「……おはよう」
誰にともなく呟いたその声は震えていた。
ノラは左手首を見下ろす。
そこには、もう存在しないはずの腕。
空虚な空間をまるで確かめるように、じっと見つめていた。
布団を畳み、ノラは義手を装着する。
金属と繊維がかみ合う音が「カチリ」と響いた瞬間、
その眼差しには静かな決意が宿った。
「今日は……どんな遺物に出会えるかな」
寂しさを押し殺すように、声は小さく期待へと変えられていた。
ノラはゆっくりと立ち上がる。
向かう先は「紹介所」――彼の新しい日々の始まりの場所だ。