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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
3章 ハコニワ(1)

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36/201

第36話 話すトヒ

小屋の中。

干し草の香りが満ちる静かな空間で、タロとイヴはノラとクロの前に腰を下ろしていた。


「夢……?」

ノラが問い返すと、タロは目を輝かせて大きく頷いた。


「うん! 俺、いっぱいあるんだ。

 美味しいものをお腹いっぱい食べたいし、晴れた太陽の下で広い草原を思いっきり走ってみたい。

 夜になったら星を数えながら眠るんだ」


その言葉は子どもじみているようで――けれど胸を打つほどの純粋さを宿していた。

クロは思わず口元を緩める。


「……まるで子犬だな。いや、すまない」


「いいよ!」

タロは屈託なく笑い声を上げた。

「だって、普通に生きられることって、一番大事だろ?」


その無邪気さに、小屋の空気が少し和らぐ。

隣にいたイヴも、静かに微笑んだ。

左右で色を異にするオッドアイが、淡い光を宿してノラを見つめる。


「私は……そうね。

 病気にならずに、毎日笑って過ごしたい。

 それから、花を育てて、きれいに咲かせたい……あと、苦しんでる人を優しく照らして包み込むお月様みたいに…」


一瞬、イヴの声は途切れた。

だがノラには、その沈黙の奥に“まだ言えぬ夢”が潜んでいるように感じられた。


「……いい夢だ」

ノラは素直にそう言葉を返した。

「どれも、俺たちにとっては当たり前のこと。けど……お前たちにとっては“遠い”んだな」


イヴは視線を落とし、小さく頷いた。

「当たり前が、一番遠いの。だから……夢になるの」


その言葉に、ノラの胸が強く揺さぶられる。

義手を握る手に力がこもり、シロの面影が脳裏をよぎった。


(……やっぱり、この現実は間違っている)


クロは黙したまま目を伏せていたが、心の奥底では同じ衝動が芽生えていた。


小屋の外からは、草原を渡る風のざわめきが聞こえてくる。

その音は、タロとイヴの小さな夢を包み込むように確かに響いていた。

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